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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ツィメルマンのブラームス室内楽の充実


1978年9月以降に日本で254回、30プログラムに及ぶ公演を行ったとある

それぞれに演奏時間45分前後を要するうえ、ブラームスの数多い楽曲の中で特に人気が高いわけではない「ピアノ四重奏曲第3番」「同第2番」を並べ、サントリーホールの第ホールを満席にできること自体がピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンの高い人気を物語っている。弦楽器奏者3人のうち、ヴァイオリンの中堅マリシャ・ノヴァクはツィメルマンが創設したポーランド祝祭管弦楽団のコンサートマスター、ヴィオラの新進カタジナ・ブゥドニクはシンフォニア・ヴァルソヴィアの首席ヴィオラ奏者とポーランドの女性奏者で、チェロだけがミュンヘン音楽大学大学院に学ぶ日本のホープ、岡本侑也という不思議なチーム。ツィメルマンに何の意図があったのか定かではないが、至って楽しそうに弾く姿が印象的。


2曲とも両端のアレグロ楽章ではヴァイオリンが気負い過ぎて金属的な音を出し、ヴィオラもつられて身振りが大きくなるので、音の美感が損なわれたのは惜しい。チェロが終始ペース配分をわきまえ、しっかりとした土台をつくっていたことは賞賛に値する。「座長」のツィメルマンは若者たちの暴走や逸脱を楽しむ余裕すら見せつつ、譜めくりも置かずに深く楽曲の奥まで入り込み、非常にニュアンス豊かなピアノを奏でた。アダージョやアンダンテの楽章では弦楽器も細心の美しさで弱音を保ち、繊細きわまりないピアノとの極上のハーモニーが生まれた。4人の拠って立つ基盤が違うからこそ、調和の輪が開いたり閉じたりするというライヴならではのスリルまで、ツィメルマンは計算していたのだろうか? おかげで長大な2曲を全く退屈することなく、最後の1音まで堪能した。ブラームスの室内楽には今回の2曲のように取っ付きは悪いが、突破口さえ見つかれば限りない味わいの広がる楽曲がいくつもある。ハマり出したら絶対に抜け出せないだろうな、と思いつつ帰宅の途についた。

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