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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ストラヴィンスキーのチャイコフスキー

エフゲニー・スヴェトラーノフが長く音楽監督を務めたロシア国立交響楽団が7年ぶりに来日。大作曲家の遠縁に当たるという若手指揮者、マリウス・ストラヴィンスキーとの日本ツアー初日(前半の日程は西本智実が指揮)に当たる9月17日、東京オペラシティコンサートホールでの公演を聴いた。ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」は意外なほど端正な感触。往年のロシアのオーケストラ、とりわけ「ソヴィエト国立交響楽団」の時代にスヴェトラーノフが率いていた時代に顕著だった粘液質の弦、ヴィブラートたっぷりの管が織りなす爆音の世界は予想以上の速度で遠のき、グローバルスタンダードを備えた機能的アンサンブルへの変身を遂げつつある。メインのチャイコフスキー「交響曲第5番」で響きの洗練は一段と顕著になり、チャルメラ風に音が揺れるオーボエに僅かな痕跡を残すだけ。マリウスはヴァイオリンの天才少年として早くからソ連国外に出てロンドン王立音楽院を卒業、各地の音楽祭に参加するうちマリス・ヤンソンスやクラウディオ・アバドと出会い、指揮者を目指したという。優れた弦楽器奏者出身の指揮者らしく弦の音色やフレージングを丁寧に整え、バレエ音楽のように優美な音楽に仕上げた。間に置かれた協奏曲では1980年代後半の国際音楽コンクールで優勝を総なめにした女性ピアニスト、リリヤ・ジルベルシュタインがラフマニノフの第2番を独奏した。すべてが完璧に再現されたにもかかわらず、心に響かない。美辞麗句を羅列するだけで印象の薄い政治家の演説のようだし、オーケストラのトゥッティ(総奏)と渡り合う瞬間の右手の打鍵音の濁りも耳につく。かつてドイツ・グラモフォンと契約、アバド指揮ベルリン・フィルと同じ曲を録音して一世を風靡したのが嘘のよう。燃え尽きてしまったのだろうか?



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