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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

オーボエアンサンブル「Fil*coule」、意表を突くエンターテインメントの世界


前半に近現代曲、後半に名曲

日本フィルハーモニー交響楽団のオーボエ奏者、松岡裕雅から突然「来週、オーボエだけのアンサンブルをやるのですが、いらっしゃいませんか?」とメッセージが届き、2021年11月2日、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールでオーボエアンサンブルFil*coule(フィル・クレ)特別公演を聴いた。松岡門下の若いオーボエ奏者の四重奏、五重奏…最大10人の合奏に松岡、札幌ベースの打楽器奏者の藤原貴子、ピアノの宇佐川真由が必要に応じて加わる。前半が室内楽、後半がオーケストラ名曲とメリハリをつけ、シエナ・ウインド・オーケストラのクラリネット奏者の近藤薫が楽曲解説、出演者インタビューなどの司会を務めた。


最初はオーボエ奏者でもある福島弘和(1971ー)への委嘱作「4つのバガテル オーボエ四重奏のための」(2017)再演。出だしで舞台に視線を集中させていたら、いきなり下手舞台袖から音が聴こえてきた。ユーモラスで闊達な曲想を際立たせる松岡のアイデアだったという。作曲者自身が「最後はミヨーの《スカラムーシュ》をイメージした」と語る通り、颯爽と駆け抜ける佳作だった。グラズノフのエスニック、洗練の両面を描いた次は昨年29歳で急逝した岩村雄太(1990ー2020)の「オーボエ四重奏のための《風のある情景》」kら「かざみどり」「銀杏並木」「木枯らし」。幻想的な響きが文字通り、風のように駆け抜けた。前半の最後は松岡のオーボエ、藤原のタンブーランの編成でコルシカの作曲家トマジの「ミレイユの墓」。貫禄たっぷりのオーボエ、強打だけでなく弱音でも確かな音楽を語るパーカッションの掛け合いは聴きごたえがあった。


後半の名曲集もFil*coule独自のオーボエ合奏編曲、デ・ファリャの「バレエ音楽《三角帽子》」からの2曲(「粉屋の踊り」「終幕の踊り」)でようやく、男性奏者が加わった。さらにアンコール2曲。実は歯科で歯茎の切れ目を縫い合わせる治療をした足で埼玉を目指す間も演奏中も鎮痛剤の効き目は「それなり」でしかなく、最初は集中して聴けるかどうか、不安で仕方がなかった。しかし聴き進むうち、ふだん接する機会のないオーボエだけのアンサンブルの妙の様々が痛みを忘れさせた。



今後の活動予定はホームページ、SNSで告知

こんなビギナーの興味を引っ張り2度、3度と足を運ばせるには発表会風の禁欲を超えた、エンターテインメントとしての工夫がさらに必要なのではないだろうか? 衣装は黒一色ではなく色とりどり、照明や配置、アルテシェニカ(身体表現)も交え、視覚に変化をつけていく。アニメやミュージカル、ゲームで親しまれたメロディーに優れた編曲を施し、オーボエ音楽として楽しんでもらうなど、メンバー1人1人のアイデアがヴィジュアル面にも生かせたら、コンサートの準備は大変ながら、より楽しいプロセスにもなるだろう。演奏内容では日本人の生真面目な「アンサンブルの縦の線をきっちり合わせる」枠を飛び出し「全員がソリストのバトル」みたいなごちゃごちゃ、ゴージャスの感じを出す瞬間がもう少し、あってもいい。合わせへのオブセッション(強迫観念)が端的に現れれたのは楽曲の終止で、それまで美しく歌わせてきたメロディラインが「はい、おしまい!」とばかりにプツンと切れてしまう。たっぷりした倍音、余韻を味わう時間があれば、客席の拍手ももっと、長く続いていたであろうと惜しまれる。11月4日には札幌公演をザ・ルーテルホールで予定。


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