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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ウイスキー好きの上野星矢がウイスキーのために奏でる「クラシックバー」開催

更新日:2021年10月15日


フルート奏者の上野星矢とは早くから面識がありながら、酒場で会うか、SNSで幸せそうに飲む姿を見るかで、きちんと取材する機会を逸してきた。フジテレビがコロナ禍で休んでいたサントリーホールとの共同企画(2014年スタート)「Classic Bar ~ in Blue Rose」を2年ぶりに再開。「サントリー・ウイスキー・アンバサダー」の肩書きを持つ元バレーボール選手の佐々木太一が同社のプレミアム・ブレンデッド・ウイスキー「碧Ao(あお)」を語った後、フルートの上野(29日)、バリトンの宮本益光(30日)のハーフリサイタルを聴く「vol.8 ウイスキー」を2021年10月29&30日、ブルーローズ(小ホール)で開く。遂に上野とウイスキーを介して音楽を語るチャンスが訪れた!、と勝手に喜び、広報を担当するフューチャー・ピーアール・アンド・メディアにテレワークのインタビューをお願いした。


ーーお酒とコラボレーションの演奏会は初めてですか?


ウィスキー・アンバサダーの佐々木太一

「フランス留学中はワイン醸造所(シャトー)で新作ワイン(ヌーヴォー)の試飲会に招かれ、室内楽を演奏した経験がありますが、日本では初めてです」

ーーしかも、大好きなウイスキーですね。

「最初は環境に応じ、色々な味を楽しめるワインに興味を持ちました。フランスの後ドイツで勉強した時期はビール。日本に帰国してから、急激にウイスキーにハマりました。日本の音楽家にはけっこう、ウィスキーのファンが多いですね。外国に比べても、日本のバーはどこに入ってもそこそこちゃんとしたウイスキーが置いてあるから素晴らしいです。僕も簡単なバーを開けるくらい、かなりの種類のウイスキーを自宅に揃えています」

ーーウイスキーのどこが、そんなに好きなのですか?

「ストレート、オン・ザ・ロック、水割りなど飲み方により、キャラクターが一変する部分を最初は面白いと思いました。ハイボールの場合、すごく安いウイスキーの方が美味しかったりもします。飲み方と味わいの無数の変化に魅せられた、そこが入口です。飲み始めたとき、飲み終わるときで、かなり味が変化する部分ではワインにも匹敵しますね」

ーー「お店を開こう」とか、思いませんでしたか?

「ワインのソムリエ資格を取ろうとしたことがありましたが、何か1つのものへマニアックにのめり込む側面は僕の場合、音楽で使い尽くしていると思い、やめました。いつも、1人の聴衆のつもりで演奏会へ出かけても、耳がプロの音楽家として全く違うポイントで聴くように動きだすと、もう普通のお客さんには戻れません。お酒に関してはラベルを見ながら高いウイスキーを飲める優越感に浸るとか(笑)、単なる素人目線に徹し、とことん楽しんでいくことにしました」

ーー一方で「お酒が生んだ音楽」の歴史もあります。

「お酒を飲むと感情の起伏が増し、饒舌になったり、泣き出したりする人がいます。サティやフォーレらがカフェに集まり、文化を論じたかたわらにも必ず酒が存在しました。酒から生まれた音楽も昔はもっと、たくさんあったはずです」


ーー改めて、今回のクラシック・バーのテーマはウイスキーであり、佐々木太一さんが語る銘柄は「碧Ao」です。

「〝バー〟で奏でるフランス音楽、〝あお〟というウイスキーに想を得てプログラムを構想する場面で注目したのは『碧』がシングルではなく、ブレンデッド・ウイスキーだという部分でした。碧は真っ青というより、割と深く複雑な青が混ざり合ったイメージです。もし、深い青をフランス音楽で表現できるとしたら、ドビュッシーを置いて他にないと思いました。フルートの鉄板レパートリーです。時間のある時は《牧神の午後への前奏曲》の独奏版を吹きますが、今回はハーフにつき、わずか2ー3分にドビュッシーのエッセンスすべてがつまった《シランクス》にしました。ドビュッシーはよく『印象派の音楽』と言われますが、本人は嫌がっていたし、僕も全く違うと思います。美術史に照らしても印象派ではなく、どちらかといえば象徴主義に近いでしょう。細部まで緻密なパーツをそろえた構成物の内側から独自の響きが立ち上がるドビュッシーと、一見幻想的なブレンデッド・ウイスキーの味わいにはどこか、共通点があります」

ーービゼーの傑作オペラに基づく「カルメン幻想曲」は上野さん自身、コンポーザー&ピアニストの内門卓也さんが共同で編曲した新版ですね。

「様々な楽器のために『カルメン』からの名旋律を織り込んだ編曲が存在しますが、僕の大好きなドン・ホセのアリア《花の歌》を入れたものは皆無です。それなら自分たちで1曲つくろう!、と内門さんと考え、フルートでの演奏しやすさも踏まえた新版が生まれました」

ーーピアノの岡田奏(かな)さんの演奏には私もたびたび接し、魅了されてきました。上野さんとはパリ時代からの友人ということですが、共演歴も長いのですか?

「パリ時代は普通に友人、〝メシ友〟でした。僕に多いパターンなのですが 知り合って最初の4ー5年は一緒に遊んだり、ご飯を食べたりで人間関係を深め『そろそろ、一緒に演奏してみようかな』と思った時点で、本格的な共演関係に入ります。岡田さんとは、ここ3年くらいです。彼女の性格そのもの、気持ち良く爽やかなピアノはフルートにぴったりです」


バレエの川島麻実子

ーーゲストにはもう1人、バレエダンサーの川島麻実子さん(元東京バレエ団プリンシパル)がおられます。ダンスとのコラボレーション、よくありますか?

「日本では初めてです。フランス時代にはリヨン国立歌劇場でダンサー&振付家のバンジャマン・ミルピエが制作した新作でヴァイオリン、フルートが交互に《サラバンド》の舞曲を演奏し、ダンサーが踊る企画に参加、自分の中で今までのベスト5に入るほど興奮を覚えました。日本ではコロナ禍前まで、どこへ行ってもブルックナー、マーラー、ショスタコーヴィチが象徴する編成の巨大化が図られていましたが、僕はそれだけが芸術ではないと思うのです。すごい小編成、ダンサーの足音まで聴こえる空間でお互い壊れそうなものを集め、繊細極まりない作品を創造する行為には、巨大な名曲コンサートにはない楽しみもあるはずです。今回、『日本でもやってみたい』と願ってきた試みの一端が実現し、嬉しく思います」

ーーダンスや美術など、幅広い芸術分野への関心には俳優&プロデューサーであるお父様、上野陽一さんの影響も大きいのではないですか?

「はい。父はマイノリティ(少数派)であること、他者と異なることは恥ずかしいことではなく、むしろ違った方が面白いという価値観、メンタリティを早い時期から授け、育ててくれました。僕の幼いころ、父の専門はパントマイムで同時代の新作(現代音楽)や環境音楽とのコラボレーションを盛んに行い、それを僕も5ー6歳から観てきたのです。後にはパリ・オペラ座ダンサーたちによるモダンダンス公演G.R.C.O.P日本ツアーの舞台監督を務めたり、ピアニストのアレクサンドル・タローが初来日した時のマネージャーをかって出たり…と、父は多彩な芸術の担い手であり続けています」

ーーもう一度、ブレンドの話に戻ります。30代に入り大阪音楽大学准教授にも就くなど、最近の上野さんは後進の教育にも携わっていますが、私は日本人演奏家の美点はヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジアの別なく、世界の音楽に等しく接することができるハイブリッドの部分にもあると考えます。教育も含め、多様性と個性のお話をお聞かせください。

「僕自身、色々な文化に適応するのが得意で、ブレンドの演奏家だと自負しています。体つき1つとっても、日本人のルーツを無視することはできません。外国で色々吸収してきたものも体内には息づいており、ドイツ時代には自分に疑問を感じてスランプに陥った時期もありましたが、次第に奏法や考え方を立て直し、ブレンドの基盤ができました。真価はその後の歴史を通じ、明かしていくしかないですね。今はテクノロジーが発達し、すべての情報が瞬時に入手できます。あまり最初に多くを取り入れると、すぐに答えが出てしまい、探究心をなくしてしまうでしょう。子どものうちは『元気に基礎練習する』を通じ、次第に自分の感覚に目覚めるプロセスが大切です。教育の現場では、外の世界と関係なく自分の体を研究し、そこで何ができるかを教えています。本当は周りの同世代の先生の何倍も厳しいのですが、努めて気づかれないようにしています(笑)。自分の世界で自分の目標を見定め、とてつもないことをやってほしいです」


ピアノの岡田奏

ーー「大きくない編成の良さ」を大ホールで味わってもらおうと、今年(2021年)3月には木管五重奏とピアノを核にした新ユニット「The Six Sense」(ザ・シックス・センス=第六感!)をサントリーホール(大ホール)で立ち上げました。11月21日には2回目の公演を同じホールで予定していますね。

「名前からして怪しいですね(笑)。一応は木管五重奏を基本にした管楽器のアンサンブルの普及を目標に国内のトップ・プレーヤーに声をかけ、ピアノを入れ、最小編成のオーケストラの体裁を整えています。初回はプーランクの六重奏、ニールセンの五重奏やラヴェルの《クープランの墓》などを演奏。今回もガーシュインの《ラプソディ・イン・ブルー》、ラヴェルの《マ・メール・ロワ》と名曲を入れ、プロコフィエフの《ピーターと狼》、ラヴェルの《ピアノ協奏曲》第2楽章はバレエと一緒に演奏します。ピアノの岡田奏さん、ダンサーの川島麻実子さんはクラシック・バーと共通、ファゴットの長哲也さん、ホルンの濱地宗さんら素晴らしい顔ぶれです。ホールの繊細で立体的な音響とともに、お楽しみください」

ーー両方のプロジェクトとも、楽しみにしています。ありがとうございました。


「Classic Bar in Blue Rose vol.8」は2021年10月29、30日とも午後1時、7時の昼夜2公演。感染症対策の緊急事態宣言の解除間もない時期を考慮、ブルーローズ内での飲食は取りやめ、ウイスキー「碧Ao」のハーフボトルと特製ロックグラスをセットした「クラシックバーオリジナルキット」の持ち帰りとする。ただし、座席レイアウトには通常のコンサートと異なる工夫をこらし、「より美しい音を堪能していただく」という。



上野星矢プロフィール

Seiya Ueno (1989ー)

19才で、フランスで開催された『第8回ランパル国際フルートコンクール』で優勝。その後、世界を舞台に活躍する日本クラシック界を代表するアーティスト。


東京都出身。小学校4年生でフルートを始め、全日本学生音楽コンクール全国大会中学生の部、高校生の部など、国内の主要コンクールの数々で優勝を果たす。15才で初リサイタルを行い、東京都立芸術高等学校に進学。2008年、東京藝術大学音楽学部フルート専攻入学。同年、世界的フルート奏者の登竜門である『第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール』優勝。杉並区文化功労賞受賞。


2009年よりパリに留学し、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で入学。2012年、パリ国立高等音楽院第1課程を審査員満場一致の最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し卒業。


2012年10月、日本コロムビアよりファーストアルバム『万華響KALEIDOSCOPE』でCDデビュー。翌2013年8月にセカンドアルバム『DIGITAL BIRD SUITE』(デジタルバード組曲)を発売し、2作連続で雑誌『レコード芸術』特選盤に選ばれる。2014年、NewYork Young Concert Artist 2014にて最優秀受賞。2015年1月にサードアルバム『into Love』を発売。2014年、ニューヨーク・ヤングアーティスト・コンペティション(NewYork Young Concert Artist 2014)にて最優秀賞。2015年秋には全8か所のアメリカツアーを成功させ、ケネディセンターでのリサイタル、最終公演はニューヨーク・カーネギーホールでリサイタルデビューを果たす。2018年『テレマン:無伴奏フルートによる12の幻想曲』、2019年『W.F.バッハ 2本のフルートのための二重奏曲集』を発表、2021年『フルートによる三大ソナタ』をリリース予定。


第25回青山音楽賞新人賞受賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。


これまでに東京交響楽団、チェコフィル八重奏団、イル・ド・フランス国立管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、オーヴェルニュ室内管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、群馬交響楽団、札幌交響楽団、仙台フィルハーモニ管弦楽団等と共演。テレビ朝日「報道ステーション」、NHK「ニューイヤーオペラコンサート」、NHKラジオ「きらクラ」「ベストオブクラシック」、NHK「クラシック倶楽部」等、メディアにも度々出演。大阪音楽大学准教授。現在は世界を舞台に、ソロリサイタルやオーケストラとの協演などの演奏活動の他、後進の指導など、あらゆる分野にて活躍中。


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