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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

アントネッロのカッチーニ、午後の贅沢


リコーダー&コルネットの濵田芳通を音楽監督とし、チェンバロとバロックハープの西山まりえ、ヴィオラ・ダ・ガンバの石川かおりと不動のアンサンブルを繰り広げる古楽アンサンブル「アントネッロ」。20世紀から21世紀の変わり目あたりから聴き続け、2005年には第7回ホテルオークラ音楽賞の審査員として、古楽演奏家では初の同賞受賞を実現した。とにかく熱く、激しく、まるでロックのライヴに出かけたような興奮があって、これまで顧みられなかった時代の音楽の普及に大きく貢献してきた。今は亡き音楽評論および高校の先輩、宇野功芳先生もアントネッロが企画するバロックオペラの大ファンで、「切ればさっと血の奔り出るような」(宇野先生の筆致をちょっとだけ、真似た)上演に繁く通っていらした。


今年はイタリアの作曲家ジューリオ・カッチーニの没後400年記念コンサートのシリーズに取り組み、10月3日、虎ノ門のJTアートホールの第2回は80分ノンストップ、昼夜2回の公演。晩年の曲集「新音楽と新書法」(1614)とオペラ「エウリディーチェ」(1600)からのレチタティーヴォ・アリアをソプラノの阿部雅子、テノールの中嶋克彦とともに演奏した。カッチーニといえば「アヴェ・マリア」だが、これは1970年代、当時ソ連の作曲家ヴラディミール・バヴィロフが勝手に名を騙った偽作史上の傑作に過ぎない。真作のほとんどが知られず、忘れられたままの実態は、アントネッロが採り上げる曲の数々をそれ以前に聴いた記憶が、ほとんどないことでもわかる。耳慣れない作品を80分間、飽きさせずに聴かせるというのは、とてつもなく優れた音楽性とプロデュース能力の賜物だろう。生気に満ちたアントネッロの演奏スタイルは衰えるどころか、ますます輝きを増す一方、互いの演奏を聴き合い、味わいながら奏でるゆとりも生まれ、円熟の匂いが漂う。贅沢な午後のひと時。

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