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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

こんにゃく座デビュー作曲家、信長貴富の新作「ルドルフとイッパイアッテナ」


斉藤洋の原作児童文学は1987年、講談社から出版されたす

オペラシアターこんにゃく座の快進撃が止まらない。2021年に始まった創立50周年記念シリーズ最新作は猫を主人公とする児童文学の傑作、斉藤洋の「ルドルフとイッパイアッテナ」のオペラ化で意表を突いた。合唱音楽で高い人気がある信長貴富を初めて作曲に招き、ルドルフの〝飼われていた〟のと同じ岐阜市で暮らす劇作家いずみ凛がオペラ台本を書き下ろし、宮崎県立芸術劇場演劇ディレクターの立山ひろみが演出した。初演は2022年9月8日、東京・東池袋の「あうるすぽっと」。ルドルフを女性が演じる「ね組」と男性の「こ組」のダブルキャストを組み11日まで4日間全6公演のうち、私は10日夜の「ね組」を観た。キャストはルドルフが小林ゆず子、イッパイアッテナが金村慎太郎、デビルが佐藤敏之、ブッチーが西田玲子。ピアニストも2人のローテーション、当夜は五味貴秋が弾いた。


岐阜で「りえちゃん」に飼われていた猫のルドルフはある日長距離トラックに迷い込み、そのまま遠く離れた東京に行きついてしまう。途方に暮れるルドルフだったが、街のボス猫で元は飼い猫、字が読めるイッパイアッテナと出会い、ノラ猫としての生き方を学んでいく。映画版の声はルドルフが井上真央、イッパイアッテナが鈴木亮平、敵役のブルドック犬デビルが古川新太、金物屋の猫ブッチーが矢嶋智人…と豪華なキャストだった。いずみはオペラ化に当たり、ルドルフがいったん岐阜に戻り「りえちゃん」が新しい猫を飼っていると知って東京へ引き返す部分など、登場キャラクターの増加を招くエピソードを思い切って削り、幼さの残るルドルフがイッパイアッテナとの出会いをきっかけに大きく成長していく核心に物語を集約した。工事現場の足場のような大道具を上ったり降りたり、手前の平面で転がったりと、立山が与えた動作はミュージカル「キャッツ」のこんにゃく座的展開を思わせる。


音楽は最初、控えめだ。主題歌はあるものの、最初は「事と次第」の説明がレチタティーヴォ状に続く。実際は「さすがの信長さんもオペラだと身構え、日本の創作にありがちな〝語り〟過剰に陥ったか」と思わせておいて、徐々に歌の世界に誘導するトリックでしかなかった。それぞれのアリアだけでなく、随所に挿入される「風と月」をはじめとする重唱曲の美しさと印象深さに、合唱で鍛えた作曲家の手腕が光る。日本語も、明瞭極まりない。15分の休憩を含めて2時間弱。チケット料金を「おとな」「こども」に分け、親子連れの鑑賞を想定した狙い通り、客席には小学校低学年の児童も目立つが、誰も退屈はしていなかった。


4人の歌役者はベストを尽くし、猫や犬を巧みに演じた。中でも金村が描出したイッパイアッテナのふてぶてしさと優しさ、知恵者ぶりの彫りは深く、全体の狂言回しの重責を見事に担っていた。猫好きの私としては、ほんの2時間だけど、完璧に童心に戻ることができた。





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