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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

「3度目の正直」で実現!大阪・箕面市の坂入健司郎指揮大阪SOと石上真由子


宿泊先でコンサートを夢見心地で振り返る

2021年6月25日、久しぶりで大阪に1泊した。先ず京都駅からJ R在来線とタクシーで西京区の青山音楽記念館バロックザールへ向かい、「福間洸太朗ピアノ・リサイタル」の前半、トーマス・マンの「ファウスト博士」の第8章でベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第32番作品111」を論じた部分を時としてピアノに合わせ、朗読した。ここでは聴衆ではなく、出演者。その前には「フランクフルト学派」の社会学者・音楽学者で作曲、演奏もしたテオドール・アドルノの「3つの小品」、アルバン・ベルクの「ピアノ・ソナタ」という凝った選曲。思わず、舞台袖で聴き入った。後半は語り抜きで作品111の全曲。「1月の東京でもたっぷり聴いたでしょ?」と福間さんに背中を押され、休憩時間にホールを出て、大阪府箕面市に阪急電車を乗り継いで向かった。箕面市立メイプルホールの大阪交響楽団特別演奏会は、会社員をしながら指揮者を続ける坂入健司郎の関西プロ楽団デビュー。京都府立医大を卒業して研修医目前に音楽の道に戻ったヴァイオリニストで坂入の盟友、石上真由子がソリストとして華を添えた。実は昨年3月に予定された公演だったが、コロナ禍で今年5月に延期され、さらに緊急事態宣言延長で1か月ずれ込んだので「3度目の正直」の実現だった。


ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」と「交響曲第7番」の王道名曲プログラム。石上は坂入ともども第1楽章では気負いからくる力み、硬さを漂わせたが、カデンツァを見事に終えた先はどんどんほぐれ、切れ味鋭く躍動感に満ちたニ長調の世界を描いた。ソリストのアンコールは何と、若林千春(1961ー)への委嘱新作「アリオーソ」の世界初演! 「イザイの《無伴奏ソナタ》かな?」と思わせる開始がどんどん傾き、軋み、うねり、独特の幽玄世界をつくる意欲的な無伴奏小品で聴き映えがした。臨席の作曲者も満足の様子だった。


後半の交響曲。大阪響の編成は小ぶり(10型?)だが、コンサートマスター林七奈の適確

なリードもあって音に求心力がある。たまにしか聴きに来られないので断定はできないのだが、大阪の楽団には東京と比べて音の重心が低く、程よく燻んでブレンドされた響きを感じることが多い。それはドイツ音楽に適したサウンドでもあり、音自体に味のあるベートーヴェンだった。坂入は早めのテンポの溌剌とした棒さばきで、ワーグナーが「舞踏の聖化」と讃えたリズムのエッジを際立たせていく。とりわけ葬式の音楽、あるいは同じ作曲家の「交響曲第3番《英雄》」第2楽章「葬送行進曲」に連なる悲嘆に傾斜しがちな第2楽章を本来のアレグレットとしてキビキビと再現、リズムを際立たせていたのに好感を覚えた。後半2つの楽章では坂入の若さ(33歳)が最大限に発揮され、舞踏の聖化の針が振り切れた。


同じ日に京都と箕面と、掛け持ち不可能ではない関西の2箇所で出演と鑑賞取材が重なるというコロナ禍中ならではの珍事。体力的にもきつかったが、坂入と石上の若いセンスが横溢したベートーヴェンに触れ、たっぷりとパワーをチャージできた。坂入さん、関西プロ楽団デビューの大成功、おめでとうございます!

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