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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

「硬派弦楽アンサンブル《石田組》」のサントリー大ホール2年目、最高の音楽


豪華絢爛コワモテ、全員黒服の男性弦楽奏者たち

神奈川フィルハーモニー管弦楽団ソロ・コンサートマスターの石田泰尚が率いる〝硬派弦楽アンサンブル〟、「石田組」の第2回サントリー大ホール公演を2020年8月9日に聴いた。


主催はクラシックでは珍しいキョードー東京。同社の女性役員が映画に合わせて生オーケストラの演奏する企画で全国を回り、各地の楽団と共演するなか、神奈川フィルのコンサートマスターの「ぶっ飛んだ」風貌とファッションに驚き事務局に照会すると、「ああ、石田〝組長〟ですか。自分のアンサンブルに《石田組》と名付けて、結構人気があるんですよ。御社でもどうか、よろしくお願いします」と、積極的反応が返ってきたという。「ならばサントリー大ホール進出を実現しよう」と考え、ホールに問い合わせると「お待ちしておりました!」と、これまた積極的反応で昨年の第1回を成功させた。私はそのとき「朝日新聞」の広告記事の執筆を頼まれ、石田組長に初めてインタビューする機会を授かった。


池「石田組の特徴は何ですか?」

石「全員が男で僕が人集めをする。これが唯一の特徴です」

池「MCとか入れるのですか?」

石「僕は途中で1度、メンバー紹介するだけ。後はメンバーの誰かに振り、話をさせます」

池「曲目は多彩というか、雑多ですね」

石「石田組は色々なジャンルを演奏できる!、と1人でも多くのお客様に伝えたいのです」

池「今後の展望は」

石「まだまだ、やっていない曲がいっぱいあります。最終的には弦楽アンサンブルをベースにフルートの荒川洋君、クラリネットの松本健司君ら国立音楽大学の同級生を中心に管楽器の名手も加え、マーラーの《交響曲第1番》をかつての仲間、(ヴァイオリンから指揮に転じた)清水醍輝君の指揮で演奏するオーケストラに発展させたいと願っています」


硬派なのは外観ではなく、苦労の絶えないオーケストラを支える多忙な日常にも音楽への夢を捨てず、自身の理想を一歩ずつ実現させていくアーティストの姿勢なのだと感服した。残念ながら昨年のサントリー大ホール・デビュー公演を聴けず、今年も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大で開催が危ぶまれたが、同ホールの感染症対策ガイドラインに従い、座席数を絞っての実現に漕ぎ着けた。プログラムは冒頭に掲げた通り。前半はクラシック、しかもエルガーだけ。後半はロックやミュージカルの名曲だ。さらに、アンコールに:


①チャイコフスキー《弦楽のためのセレナード ハ長調 Op. 48》より第2楽章《ワルツ》

②モリコーネ(近藤和明編)《ニュー・シネマ・パラダイス》

③井上陽水(松岡あさひ編)《少年時代》

④クイーン(松岡あさひ編)《ボーン・トゥ・ラブ・ユー》


4曲も大サービス。《少年時代》のイントロには中田喜直の《夏の思い出》が引用され、石田は捕虫網と虫かごを携えて登場、爆笑を誘った。最後は客席が総立ちの熱狂。ジャンルと全く関係なく「2時間ただひたすら、よい音楽、すてきなエンターテインメントに浸った」との思いに全身が満たされた。黒ずくめの集団が、長く自宅での鬱屈した生活を余儀なくされた人々を一瞬、夢の世界に誘う魔法使いの集団に見えた。エルガーの1曲目、「弦楽セレナード」の時だけ、全員が黒いマスクを着用してこと自体、1つの主張がこめられていた。


もしクラシック系の主催者なら先ず、「前半エルガーのみ」に難色を示したはずだ。だが第一歩は作品より「石田組」の強烈なキャラクター、多彩な曲目に惹かれチケットを購入するお客様が大半だろうし、ポピュラー系がメインのキョードー東京の主催なので逆に、クラシックパートは「何でもあり」の融通がきく。おかげで夏にふさわしいエルガーの優しく、涼やかな作品をたっぷり2曲も味わうことができた。メンバーをながめれば想像がつく通り、腕利きそろいなのでアンサンブルもソロも第1級の水準で、全く不安を抱かせない。


この〝凄腕〟が後半、熱狂というか狂乱の音の海に広がっていったのは当然の成り行きだ。松岡あさひの編曲も奏者1人1人の持ち味を生かし、聴き映えがした。1か月前はバリトンの加耒徹のパートナーとして、ドイツリート(歌曲)で素晴らしいピアノを披露したのと同一人物。音楽の引き出しが豊かなコンポーザー&ピアニストの別の一面にも触れられた。 



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