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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

Happy Bach Day! 大バッハの誕生日を華やかに祝った鈴木雅明・優人とBCJ


左からフレミッシュ・フレンチの「ぼたんえび」、フレミッシュの「バイブル」と「バタフライ」

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)第147回定期演奏会「バッハの誕生日を祝って」(2022年3月21日、東京オペラシティコンサートホール)

指揮&チェンバロ=鈴木雅明、チェンバロ&オルガン※=鈴木優人、チェンバロ=大塚直哉、管弦楽・合唱=BCJ(コンサートマスター=若松夏美)、ソプラノ=松井亜希、アルト=久保法之、テノール=櫻田亮、バス=加藤宏隆

J・S・バッハ

「3台のチェンバロのための協奏曲第1番BWV1063」「2台のチェンバロのための協奏曲BWV1060」「3台のチェンバロのための協奏曲BWV1064」

「プレリュードとフーガBWV535」※

「カンタータ第30番《喜べ、贖われた者たちの群れよ》BWV30」

アンコール:「カンタータ第147番《心と口と行いと生活で》〜第6曲 コラール合唱《イエスはわたしのもの》」

「長くバッハの誕生日当日(3月21日)に『ハッピー・バースデー』のコンサートをやりたかった」という鈴木雅明の念願が、337歳のタイミングでかなった。外国人入国規制の影響で「4台のチェンバロ」は実現しなかったが、鈴木雅明&優人父子に大塚直哉という豪華な顔ぶれの「3台」が実現、「2台」は父子のソロで大塚は通奏低音に回った。チェンバロはいずれもオランダのヴィレム・クルスベルヘンが製作したピリオド楽器のレプリカで今回、3台目の「バタフライ」(外側の湾曲部分に未完成の蝶の絵がある)が修復を終え、BCJに加わった。親子共演は丁々発止、大塚が入ると和気藹々という感触の差を面白く聴いた。

東京オペラシティコンサートホール「タケミツメモリアル」はスイスのクーン社製パイプオルガンをオープン時点から備えているが、よくよく考えてみると、自分がオルガンを単独で聴く機会は極めて稀だ。優人の演奏はキリッと引き締まり、フーガの輝かしさを味わえた。

最後に雅明がマイクを持って現れ「なぜ、このカンタータを祝いの席に選んだか」を説明した。「若い頃のカンタータを晩年に改作したもので、『罪人も罪を贖えばこれほど晴れやかに行進できる』とする内容の明るさは、おめでたい席にふさわしい」とした上、「冒頭の音型が《Happy Birthday to You!》に似ていなくもない」といい、爆笑を誘った。トランペット3人が加わったが「これは父バッハのオリジナルではなく、息子ヴィルヘルム・フリーデマンが演奏した時の編成でした。その時は2人だったのですが、私は3にこだわりたくて3人。全然オーセンティックではないバッハ演奏でした」と明かした。定期では異例のアンコールは「今、世界で起きていることへの私たちの思い」。「カンタータ第147番」終曲《主よ、人の望みの喜びよ》と旋律を共有する第6曲の歌詞(ああ、だから私はイエスを放さない、たとえ私の心が張り裂けそうな時にも)が「ふさわしい」と判断したそうだ。

BCJは合唱団と管弦楽が一体の演奏団体だ。特に、すでに全曲録音を「BIS」レーベルで完成したJ・S・バッハのカンタータは〝主力〟レパートリーであり、渾身の演奏を繰り広げた。4声部4人ずつ(総勢16人)の合唱は隙なく明瞭に響き、各パートから1人ずつがソロを務める。4人とも口跡明晰、きちんと内容を把握して語りかけるように歌い、説得力があった。とりわけアルトの久保(カウンターテナー)、バスの加藤の深く透明な美声が際立っていた。ピリオド楽器の合奏団も30数年前のBCJ発足当時に比べ、はるかに安定度と表現力を増し、声楽と緊密に融和しながら、温かな響きを保った。死後272年を経た極東の地で、このように素晴らしい再現が続くことこそ、バッハへの最大のプレゼントだといえる。


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