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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

服部百音と藤岡幸夫、とっておきのアフタヌーン


日本フィルハーモニー交響楽団とサントリーホールが共催する平日午後の人気コンサート、「とっておきアフタヌーン」の第10回を2019年5月8日に聴いた。今シーズンのテーマはマエストロと新進ソリストの共演でアナウンサーの政井マヤがナビゲーターを務める。シーズン初回は藤岡幸夫の指揮、服部百音のヴァイオリンでロシアの名曲を2つ並べた。


今年で20歳と伸び盛りの服部、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」の弾き始めで聴衆の耳を釘付けにした。純白のドレス、必ず前後左右4方向の客席に頭を下げる丁寧なステージマナーには映画「ローマの休日」でプリンセスを演じたオードリー・ヘップバーンを思わせる気品がある。だが弦の音は深々とした味わい、多彩なニュアンスに満ち、第1楽章を慌てず騒がず、じっくりと歌い込む。第2楽章のカンタービレは美しく、第3楽章では一転、阿修羅のごとき迫力でたたみかける。今から40年以上前、前橋汀子のチャイコフスキーに魅せられ「追っかけ」をしていた中高生時代の自分にタイムスリップしたような、素敵な時間を服部が授けてくれた。音楽は時空を超える芸術だ。アンコールはフロトーのオペレッタ「マルタ」のアリアに引用したイギリス民謡「夏の名残りのバラ」(庭の千草)に基づくエルンスト作曲の超絶技巧変奏曲。ギドン・クレーメルのオハコだが、服部はクレーメルを上回る技と若い女性ならではのフレッシュな感性とで、ほぼ完璧な演奏を繰り広げ、唖然とした。


後半はストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」1919年版。藤岡が政井アナを聞き手にオーケストラの実演を交え、聴きどころを解説したのが良かった。政井の司会は出過ぎず引っ込み過ぎず、アナウンサーのプロフェッショナリズムと品格を備えたもので、素晴らしい。


依然、ヨーロッパ公演の余韻を保ち音が良くブレンドした日本フィルの響きと、藤岡のオープンで温かい人柄が相乗効果を上げ、マイルドで親しみやすい音楽に仕上がった。名曲コンサートをわかりやすく振るマエストロとして、藤岡なりの円熟境にきたようだ。アンコールのエルガー「夕べの音楽」を聴きながら、日本フィル創立指揮者の渡邉暁雄と並ぶもう1人の恩師、英国のチャールズ・グローヴスから授かった何かも、藤岡の体内でしっかりと熟成してきたと確信した。今年6月22日、サントリーホールで再び日本フィルの指揮台に立ち、藤岡の指揮する渡邉暁雄生誕100周年記念演奏会が楽しみだ。

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