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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

指揮者の才能と円熟について深く考えた角田指揮東京フィルとスダーン指揮札響

更新日:2022年2月12日


久しぶりの昼夜はしご

2022年2月8日はオーケストラ演奏会を2つ、はしごした。


1)2022都民芸術フェスティバル「オーケストラ・シリーズNo.53 東京フィルハーモニー交響楽団」(午後2時、東京芸術劇場コンサートホール)

指揮=角田鋼亮、ピアノ=小山実稚恵※、コンサートマスター=三浦章宏

ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」※

ソリストアンコール:ショパン「夜想曲(ノクターン)第2番」

R=コルサコフ「交響組曲《シェエラザード》」

アンコール:ハチャトゥリアン「バレエ音楽《ガヤネー(ガイーヌ)》より《レスギンカ(若者たちの踊り)》」


2)札幌交響楽団東京公演2022(午後7時、サントリーホール)

指揮=ユベール・スダーン、ヴァイオリン=山根一仁※、コンサートマスター=田島高宏

ベルリオーズ「劇的交響曲《ロメオとジュリエット》より《愛の場面》」

伊福部昭「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」※

シューマン「交響曲第2番」


クラシック音楽に興味を覚えた子どものころ「指揮者の30、40歳は鼻垂れ小僧、モノになるのは60歳から」の言い回しをしばしば聞いたり読んだりした。例え才能に多少不足があったとしても、現場経験をふんだんに積めば、かなりの成果を挙げられるとも解釈できる。


ユベール・スダーンが仏ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝した翌年の1980年、東京都交響楽団第127回定期演奏会(7月9&10日、東京文化会館大ホール)に客演(「ウベール・スーダン」と表記されていた。この時は新日本フィルハーモニー交響楽団も指揮した)に客演した時のブラームス「交響曲第3番」は、私がこれまで世界中で聴いてきたブラームスの交響曲中でも最低の演奏の一つで即刻、「2度と聴きたくない指揮者」のバスケットに入れてしまった。2004年に東京交響楽団音楽監督に就任したのも、ワタクシ的には「?」だった。ハンブルク州立歌劇場で観たペーター・コンヴィチュニー演出のモーツァルト「皇帝ティトゥスの慈悲」を東京二期会が2006年にスダーン指揮東響と上演した際も、ハンブルクのインゴ・メッツマッハーの指揮に比べ、演出への理解が激しく乏しいと思った。


解釈には相変わらず独自性が乏しく、世界のトレンドを「いいとこ取り」した「インターネット指揮者」の傾向があるにせよ、監督就任後のスダーンはオーケストラ・トレーナー&ビルダーの優れた手腕を発揮、東響の演奏能力を大いに高めた。人柄は相変わらず素朴で、次第に日本全国の楽団へと活躍の場を広げていった。いつしか指揮棒を持たず、指揮台も省き、自分の考える理想の響きを日本の楽員1人1人から引き出す術(すべ)を覚え、それぞれのオーケストラに最大限のパフォーマンスを発揮させる名人の域に達したのだから驚く。8日の札響東京公演は来日できなかった首席指揮者マティアス・バーメルトの代役とは思えない密な指揮ぶりで、「日本で大成したスダーン」の集大成といえた。ベルリオーズ冒頭のヴィオラ、チェロの艶やかな響きで聴衆をわしづかみ、神がかり領域の山根の独奏をいちぶの隙もなく支えて伊福部のスコアを鳴らし切り、シューマンで最高のグルーヴ感覚とバランスを達成しつつ、札響独自のサウンド・アイデンティティーを完全に生かした名演だった。


これに対し角田は有り余る才能に恵まれ、指揮者のエリートコースと考えられる教育も受けてきたが、経験値が足りず、スダーンのレベルでのオーケストラ・コントロールの妙は味わえなかった。ラフマニノフはベテランの域に達した小山が絶えず余裕をもって、繊細かつダイナミックに再現したのに対し、管弦楽はフォルテッシモまでのストローク(飛距離)が短く、弱音から中くらいの音量ゾーンで語りかける前にバーンとフォルテが炸裂してしまう。「シェエラザード」も三浦のどちらかといえば繊細な感触のソロに対し管弦楽全体がパワー指向と、美意識にズレがある。4つの楽章を丁寧に切り、それぞれのキャラクターを十全に描こうとする意図は理解できた半面、部分部分をフルに再現することに神経を注いだ結果、全体を貫く大河ドラマのような流れが著しく削がれてしまったデメリットは否めない。指揮もオーケストラも全力投球だったのに、まとまった印象と感銘に乏しかったのは残念だ。


若さの美点はアンコールの「レスギンカ」に集約され、良い印象とともに会場を去れたのは幸いだった。このところ角田を絶賛するレビューばかり書いていたので「あれ?」と思われるかもしれないが、1980年生まれだから今年42歳、まだ出来不出来があって当然だろう。期待すればこそ、ジジイは時に、意地悪の一つも言いたくなるということでご勘弁下さい。


最後に再び札響。2017年のラドミル・エリシュカ告別演奏会の時点と比べても演奏能力の向上は目覚ましく、固有の素晴らしい響きを揺るぎなく備えている点では一部の東京のオーケストラの上をいく。ここ数日の大雪で東京公演実現を危ぶまれただけに、サントリーホールの舞台に楽員が姿を現した途端、在京オケ定期を上回る熱量の拍手が巻き起こった。舞台と客席の一体感においても稀に見る感動を生んだ演奏会。代役指揮者スダーン、恐るべし!



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