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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

反田恭平、自叙伝的エッセイ「終止符のない人生」出版と凱旋コンサート実況盤

更新日:2022年7月26日


2022年7月12ー28日の全国ツアーに合わせて発売

2021年の第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで、日本人としては1970年の内田光子以来51年ぶりの第2位を得て以来、反田恭平の内外メディアへの露出は目立って増えた。同じ人物を異例の3度もとり上げたテレビ番組「情熱大陸」(TBS系)を除けば、短時間の演奏と通り一遍の話題に終始しがちな中、反田が生い立ちから音楽の未来までを自身の言葉で語ったエッセイ本「終止符のない人生」が2022年7月21日、幻冬舎から発売された。最終(第7)章をピアニストの小林愛実や務川慧悟、ヴァイオリニストの岡本誠司ら「僕を支えた天才たち」のために割くなど、常に個人&チームのプレイの上に自らを規定する反田らしく、幻冬舎の担当者の木内旭洋さんも小中学校の同級生、これが初の編集本に当たる。


第3〜4章、ショパン・コンクールの〝実録〟と分析はもちろん全体のキモだが、個人的には第5章「音楽で食べていく方法」と第6章「音楽の未来」が刺激的で、面白く読んだ。世界の若者がクラシック音楽に目を向ける、あるいは世界に通用する音楽家を日本から生み出すために必要と思えるアイデアが次から次へと出てきて、旧態依然のギョーカイ構造に飼い慣らされてきた年長者の神経を直撃する。絵に描いた餅というより、1つずつ実行に移しつつあるプログラム&プロジェクトのカタログであり、反田恭平というアーティストがすでにピアニストの枠を大きく超え、音楽の世界の〝世直し〟に爆進する姿が浮き彫りになる。


一方、「凱旋コンサート」(2022年1月6&7日、東京・サントリーホール)のライヴを収めた2枚組ディスクは7月12日のツアー初日(ジャパン・ナショナル・オーケストラの〝本社〟所在地、奈良市の奈良文化会館国際ホール)に合わせ、会場先行販売を開始した。「ワルツ第4番」「バラード第2番」「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」「ピアノ・ソナタ第2番《葬送》」「ポロネーズ第6番《英雄》」など、ストライクゾーンの超有名曲の間に「マズルカ風ロンド作品5」「ラルゴ」といったレア曲が忍び込む。なぜ、こうした作品に目を向けたかの理由も「終止符のない人生」では明かされている。


コンクール参加直前、2021年8月26日に同じホールで行われたリサイタルについて、私は当サイトで下記のようなレビューを書いた:

「すでに解釈の土台は固まり、堂々淡々、危なげなく落ち着いた音楽の運びに聴き手は安心して身を委ねた。デビュー当時の〝暴走機関車〟さながらの粗さは完全に影をひそめ、磨き抜かれたタッチで落ち着いた音楽をじっくりと語りかけ、無理な力なしに作品の内面世界へと誘う。前半は夜想曲のトリルでみせたハッとするほど美しい音色、バラードの息長い盛り上げ、ポロネーズのリズムの端正な刻み…など随所で目覚ましい進境を印象付けた。後半はマズルカ3曲それぞれのキャラクターを自在に描き分け、葬送ソナタの落ち着き払った運びの中から浮かんでは消えるデーモンのうごめき、精確なリズムを刻みながら融通無碍の第2楽章、抑制を効かせた葬送行進曲の品格、第4楽章の見事な疾走と着地のすべてにおいて、インターナショナルな水準を備えた演奏を繰り広げた」


反田は熟れたコンテンツを携え「成果を出す」目的でワルシャワに戻り、夢を実現した。凱旋コンサートでは一段と恰幅のいい演奏を繰り広げる半面、いまの反田が見る世界の中で、ピアノの占める割合が猛スピードで低下、「完全なる音楽家(ミュジシャン・コンプレ)」「総合芸術アーティスト&プロデューサー」の道へと大きく踏み出している姿を実感したのも確か。目標は正論でも、行く先には幾多の障害物が現れ、試みが失敗に終わる場面もあるだろう。だが、過去にも多くの困難に自力で立ち向かってきたsamurai風雲児は瞬時にして立ち直り、私たちが今まで体験したことのないような音楽の世界をみせてくれるはずだ。



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