• 池田卓夫 Takuo Ikeda

原田慶太楼指揮の愛知室内オケ、ブラームス・ツィクルス2は交響曲第2&3番


今回はソリストなし、交響曲2作だけのプロ

新しい音楽情報サイト「FREUDE」(フロイデ)に愛知室内オーケストラ(ACO)を様々な角度から描く計10回(月1回)の連載を請け負い、今年5月から頻繁に名古屋を往復している。2年前に新たなスポンサーの医療法人、葵鐘会(きしょうかい)を得て演奏会数を増やしながら、初顔合わせの指揮者やゲストコンサートマスター、ソリストを次々に起用し、初代音楽監督に山下一史を獲得した。連載第1回は原田慶太楼との初共演、「20代で1度取り組んで以降、10年間封印してきた」というブラームスの交響曲全曲(第1ー4番)と2曲の協奏曲を10か月がかり3回の演奏会で指揮するツィクルスの初回(5月16日、しらかわホール)だった。第2回以降は連載の対象から外れるので自分の取材として、当ホームページにレビューを書く。先ずは、すでにアップした「FREUDE」の記事を貼り付ける:


1)https://freudemedia.com/feature/aichichamberorchestraone

2)https://freudemedia.com/feature/aichichamberorchestratwo


原田&ACOのブラームス・ツィクルス第2回は2021年9月26日、しらかわホールの「交響曲第2&3番」で初回、最終回に現れる協奏曲ソリストもなしの高難易度プロだった。ゲストコンサートマスターにハンブルク州立歌劇場管弦楽団に長く在籍、前音楽総監督シモーネ・ヤングの指揮でブラームス「交響曲全集」を録音した経験を持つ塩貝みつるを招き、ヴァイオリン20人の「マイニンゲン編成」の基本は初回と同じ。前回はヴィオラにACO出身で現在はNHK交響楽団次席奏者の中村洋乃理、チェロに元東京交響楽団首席奏者の西谷牧人…と主要セクションにもゲストを招いたが、今回はACOメンバー中心の編成で臨んだ。


私は前夜に名古屋へ入り、本番当日午前10時30分のゲネラルプローべ(会場総練習)から立ち会った。前回との比較で最も気になったのは、チェロからコントラバスにかけての低弦ラインの押し出しが足りず、ドイツ語の拍節感を体現したブラームス独特のオルゲルバス(通奏低音=ゲネラルバスでもとりわけ、オルガンの低い持続音に近いもの)の存在感、交響曲全体に与える土台への意識が希薄な点。ヴィオラからチェロにかけての中音域が担う内声部の動きも控えめだ。塩貝の懸命のリードによるヴァイオリン群のうねり、管楽器(とりわけ木管)ソロの名人芸だけでブラームスのこの2曲、とりわけ第3番の3拍子系の音楽を〝動かし〟〝生き返らせる〟のは至難の業のように思われた。リハーサルの最後、原田はロリン・マゼールに師事していた時期、ニューヨーク・フィルハーモニックを前に「手を使わず、顔の表情だけで《エグモント》序曲(ベートーヴェン)を指揮してみろ」と言われたエピソードを引き合いに出した。「テクニックよりもエモーション。コンサートマスターだけでなく互いを見ながら、プラスアルファのアンサンブルがほしいです。スコアの縦の線を合わせる以上に『ブラームスが何を伝えたくてこの音楽を書いたのか?』をよく考えてください。もっと自分を信じ、インスピレーションに任せて弾くように!」と呼びかけた。


本番前半。「第2番」はゲネプロを通じ危惧された通り、エモーションが先走ってしまい、けたたましいサウンドで始まった。思いっきり弾いていても、横方向のコミュニケーションをとるまでのゆとりがない。トゥッティ(総奏)暴走にブレーキをかけつつ、連携セクション一体のアンサンブルを整えるだけの経験と力量を備えた首席奏者の不在を痛感せざるを得なかった。ところが第4楽章大詰め、再現部の第2主題が現れた瞬間ついに、弦のおおらかな歌心が有機的に絡みだし、「ブラームスが降りてきた」と思わせる音楽に一変した。


後半の「第3番」では前半最後に到達した水準を基盤として、さらに上の音楽を目指した。原田は指揮棒を持ったり、持たなかったりを巧みに使い分けて楽想の変化を適確に伝え、アクセントと隈取りのはっきりした指示を伴いながら、ゆっくり、しっかりと歌わせていく。それでも決して重くならないよう弦の俊敏な動きを塩貝に委ね、リズムも際立たせる。第2ー4楽章はアタッカ(継ぎ目なし)で流れを重視、第2楽章と第3楽章では木管の室内楽的アンサンブルの美しさを際立たせた。第4楽章ではスフォルツァンド(強いアクセント)、ルバート(テンポを〝盗む〟)、スビトピアノ(瞬時の弱音)などの即興を随所に仕掛けながら「しらかわホールでの響きが必要以上に均質、平板にならないよう気をつけた」(原田)という。完全燃焼のクライマックスを経て、次第に音量を減じ、静かな余韻を残して最後の音が消えてからしばらくの間、原田も楽員も全く動かず、客席ともども沈黙の美味まで味わい尽くした。


原田の「第2→第3の順に演奏しないと第3が台無しになる」との読みは的中、稀にみるほど充実した「第3番」に仕上がった。アンコールは3番つながりで、「ハンガリー舞曲第3番」。原田は最後、素晴らしいソロを披露したオーボエ首席客演奏者、山本直人を起立させた。深読みすればツィクルス最終回に向けた、原田による「表現の積極性、アクシデント対応の両面で、現段階のACOの要所要所に経験豊かなゲスト首席を招く必要と意義」のアピールだったのかもしれない。

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