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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

佐藤晴真チェロリサイタル、堂々の凱旋


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2019年9月13日、ミュンヘンのARD(全ドイツ放送協会連合)音楽コンクール(日本での通称はミュンヘン国際音楽コンクール)のチェロ部門で日本人初の第1位に輝いた佐藤晴真(1998年名古屋市生まれ)が同年12月6日、紀尾井ホールでリサイタルに臨んだ。元々デビュー公演のはずだったが、凱旋コンサートを兼ねた注目の公演に一変、客席にはオーケストラやホールの、音楽財団の企画担当者、評論家、ジャーナリストの姿が数多く見られた。


前半はフランス音楽で、ドビュッシーとプーランクの「チェロとピアノのためのソナタ」。後半はドイツ音楽のブラームスで、「5つの歌曲作品105より第1曲《メロディーが導くように》」「6つの歌作品3より第1曲《愛のまこと》」「5つの歌作品71より第5曲《愛の歌》」とロマンティックなリート(歌曲)からの編曲に続き大曲、「ピアノとチェロのためのソナタ第2番」。アンコールは再びドビュッシーで、「美しき夕暮れ」が奏でられた。


楽器のE.ロッカ1903年は宗次コレクション、弓のF.Tourteは匿名のコレクターと、それぞれ私も面識のある篤志家お2人から貸与されたもの。佐藤はアンコール前の挨拶で感謝を述べ、「弾きやすかった!」と本音を漏らした。いかに優れた楽器を手にしても、腕が及ばなければ宝の持ち腐れだが、佐藤は深々とした音を引き出しながらたっぷり、自由闊達な歌を紡ぎ、傑出した力量を示した。日本人の国際コンクール受験ではピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラの成績がとびきり良く、チェロは後塵を拝してきたが、ここへきて佐藤、伊藤悠貴、岡本侑也、伊東裕(2018年ARDコンクール室内楽部門1位だった葵トリオの一員でもある)ら光る才能が続出している。いずれも「当たって砕けろ」とばかりにガンガン弾くタイプではなく、最初から室内楽への適性も備え、味わいのある音楽を聴かせるタイプとの共通点に、日本楽壇の成熟を指摘できる。今年21歳の佐藤も、出発時点の水準が極めて高い。


若手ならキラキラ輝かせたくなるフランス音楽(この2曲は、そればかりの作品ではないけど…)でも、佐藤は楽曲の構造や内面に、深い眼差しを注ぐ。ドビュッシーは先週のジャン=ギアン・ケラスーーこの曲を得意としているーーと比べても、独自性を主張できる解釈と演奏だった。やや若さが足りないのではないかという危惧は、後半のブラームスで杞憂に終わった。リートからのトランスクリプション(編曲)のロマンティックな歌わせ方の端々から、若い息吹が聴こえた。ソナタは前半の思慮深さ、後半の大胆さの集大成といえた。


大成功に終わったリサイタルだったが、ピアノの薗田奈緒子が最適のデュオ・パートナーであったか否かには正直、疑問が残る。ハイフィンガー気味で手の平の「返し」が大きい奏法は音の減衰が早く、チェロの豊麗な歌心を最後まで支えきれない。フォルテの硬さも、共演者の円やかな音感覚とは一致しない。上手とか下手ではなく、相性の問題という気もする。



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