福岡市の衛星都市、那珂川は平成の大合併ではなく、人口が自然増で5万人を超えた昨年10月、町から市へ昇格した。福岡市中心部の天神に事務所を置く九州シティフィルハーモニー室内合奏団と那珂川市、814席のホール「ミリカローデン那珂川」を管理する那珂川市教育文化振興財団の三者は昨年11月に連携協定を締結。2019年4月20日の第1回定期演奏会を皮切りに年2回の定期、ファミリーコンサート、室内楽コンサート、教育機関への巡回公演などを行なっていく。
3月18日、東京都内で開いた記者会見には楽団長でコントラバス奏者の森田良平、首席指揮者の海老原光が出席した。ともに鹿児島県出身、「コアメンバー」と呼ばれる11人の奏者も全員が九州人で大半が福岡を拠点に活動している。首席客演コンサートマスターには長くハンブルク州立歌劇場のオーケストラ(ハンブルク・フィル)のアシスタントコンサートマスターを務め、2年前に帰国した塩貝みつるを招いた。
海老原は「新ウィーン楽派の私的演奏協会やパウル・ザッヒャーのバーゼル室内管弦楽団などヨーロッパの歴史的実験、オーケストラ・アンサンブル金沢やシンフォニエッタ静岡など国内の先行例も参考にしながら、モーツァルトすべての交響曲・室内楽曲と現代の新作の両方に対応できるアンサンブルを目指す」といい、最初の定期でもモーツァルト、グリーグとともに、中村滋延の新作を指揮する。また「ホールを演劇的空間ととらえるならば、楽員1人1人は役者であるべきだ」の考えから、ムジカ・エテルナのような立奏を採用した。さらに「那珂川の市内を徹底して掘り下げる自己完結と、全国への発信との両にらみでグローカル(グローバルとローカルを合わせた造語)な展開を実現したい」と、意気込みを語った。
内外各地のオーケストラにエキストラで参加する機会が多い森田は、京都フィル室内合奏団などでの経験を踏まえ、「ポップスや落語など異なる分野とのクロスオーバーも交え、新しい音楽ファンをつかみたい」としている。活動エリアには九州全域を想定し「県庁所在地以外の市町村へも、積極的に出向く」方針。私はふと人口7万5千人の小都市ながら、世界的オーケストラと素晴らしい音響のホールを備え、市民の1割以上が定期会員というドイツ・バイエルン州バンベルク市の例を思い出した。バンベルク交響楽団もドイツ全土をくまなく演奏して回ることで知られ、かつては「旅するオーケストラ」の異名をとっていた。45歳と、指揮者の正念場に差しかかった海老原にとしては素晴らしい創造の拠点を与えられたことになる。期待したい。
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