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ハープの高野麗音がB→Cでみせた凄み

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

池辺晋一郎さんもご満悦

東京オペラシティ文化財団が開館当初からリサイタルホールで続けてきた「B→C(バッハからコンテンポラリーへ)」シリーズは、若手演奏家紹介の貴重な舞台としての評価を確立している。自主リサイタルだと集客も考慮、どうしても日本人好みの古典派〜ロマン派の作品を並べがちだが、B→Cはその名の通り、バッハをはじめとする18世紀以前から同時代までの作品を網羅することが義務付けられているので、演奏家の力量を仮借なく判定できる厳しい機会でもある。シリーズ第207回となった2018年12月18日は、1984年埼玉県生まれのハープ奏者、高野麗音が登場した。


実は、高野の母が私と同い年のオペラの稽古ピアニストで共通の友人もいたため、中学生のころから面識がある。当時から立派な腕前を持っていて、ホテルのチャリティコンサートで弾いてもらったこともあった。名教師がひしめき、門下ごとの力関係に左右される国内ハープ「業界」では地味な存在に甘んじていたが、2005年からのパリ音楽院留学で大きく伸びた。帰国後はソロにアンサンブルに、あるいはオーケストラのエキストラに、東奔西走の日々である。特にアンサンブル・ノマドなど、同時代音楽の演奏には欠かせない名手だ。かの佐村河内守の交響曲でも、ハープのエキストラに乗っていた姿を覚えている。


B→CではJ・S・バッハの「フランス組曲第6番」、コンスタンの「アルバリセ」(1980)、ダマーズの「シシリエンヌ・ヴァリエ」(1966)、パリの留学仲間である台信遼の「円柱−−ハープのための」(2009/11)、武満徹の「海へⅢ」(アルトフルート独奏は森川公美)、ホリガーの「前奏曲、アリオーソとパッサカリア」(1987)、サルセードの「バラード作品28」(1913)、フォーレの「即興曲作品86」(1904)を弾いた。


正直、最初のバッハはいまいち。高野の演奏がどうこうというより、楽曲が求めるスケールに対し、ハープの表現領域が不足するという物理的問題という気はした。今日、バッハの鍵盤作品の再現では楽器がチェンバロだろうと現代ピアノだろうと、18世紀音楽の様式感、アーティキュレーション、フレージングなどを踏まえるのが常識だが、ハープだとなかなか、難しいのではないか? バッハを弾くなら「イタリア協奏曲」とか、単純に演奏効果の上がる作品でも良かった気がする。


だがコンスタン以降の近現代作品の演奏は、どれも楽しめた。コンスタン、ダマーズの名技や美意識は台信作品にも受け継がれ、パリに集った世界の才能の展覧会のように思えた。武満作品でも初演者世代とは一味違う、しっとりした趣で聴かせた。最後のフォーレでみせた濃密な味わいには、高野の演奏家としての成長がはっきり示されていた。10代でも一流だったのが、いよいよ凄いゾーンに入ってきたのだと思う。東京オペラシティミュージック・ディレクターの作曲家、池辺晋一郎もご満悦の様子で終演後、高野の健闘を讃えていた。

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