top of page
執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ドイツ歌劇「媚薬」に酔い続けた弥生

今月のパフォーマンス・サマリー(2024年3月)


「トリスタン」は子ども向けを含めれば3通り

2日 新国立劇場オペラ研修所「カルメル会修道女の会話」(新国立劇場中ホール)

3日 びわ湖ホール「ばらの騎士」(びわ湖ホール大ホール)

5日 森内剛指揮読売日本交響楽団、福間洸太朗(Pf) (東京芸術劇場コンサートホール)

8日 高関健指揮東京シティ・フィル (東京オペラシティコンサートホール)

9日 井上道義指揮新日本フィル 林眞暎(メゾソプラノ)(すみだトリフォニーホール)

10日 下野竜也指揮広島交響楽団 (すみだトリフォニーホール)

11日 18世紀オーケストラ、トマシュ・リッテル、川口成彦、ユリアンナ・アヴデーエワ(以上フォルテピアノ)

13日 アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィル (東京オペラシティコンサートホール)

14日 新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」 (オペラパレス)♠️

15日 オペラシアターこんにゃく座「神々の国の首都」(吉祥寺シアター)❤️

16日 金川真弓(Vn)&小菅優(Pf) (彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール)🎻

17日 オペラ「助けて、助けて!エイリアンだ!!(石川県立音楽堂邦楽ホール)❤️

18日 マルク・ミンコフスキ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(サントリーホール)

19日 伊藤憲孝(Pf) (汐留ホール)❤️

20日 小泉和裕指揮九州交響楽団 (サントリーホール)🐶

21日 東京・春・音楽祭「子どものためのワーグナー《トリスタンとイゾルデ》」ゲネプロ(三井住友銀行東館アース・ガーデン)

23日 小澤征爾音楽塾オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」(東京文化会館大ホール)🐶

24日 飯森範親指揮群馬交響楽団 ジャン・チャクムル(Pf)(サントリーホール)❤️

25日 川瀬賢太郎指揮名古屋フィル (東京オペラシティコンサートホール)

26日 鈴木大介(ギター) (東京国立博物館平成館)

27日 東京・春・音楽祭「トリスタンとイゾルデ」 (東京文化会館大ホール)🐶

28日 キアロスクーロ弦楽四重奏団 (王子ホール)❤️

29日 バッハ・コレギウム・ジャパン「マタイ受難曲」(東京オペラシティコンサートホール)

30日 ノエ・スーリエ「The Waves」(ダンス) (彩の国さいたま芸術劇場大ホール)

❤️は「音楽の友」、🐶は「毎日クラシックナビ」、🎻は「サラサーテ」、♠️は平凡社「太陽」Web版にそれぞれレビューを執筆


上演に5時間近く(休憩込み)を要するワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」全曲を2種類、子ども向けの短縮版を含めて3通りの再現手法を1か月のうちに楽しめる都市が世界にそうあるとは思わない。色々と不備不満はあったとしても、これだけの密度で聴き続け、自分と作品の距離を縮めることができたのは幸いだった。歌手では藤村実穂子のブランゲーネに強い感銘を受けた。ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場で最初に藤村の同役に接してから25年になる。声の威力は少し後退したが、代わりに全ての歌詞に深い解釈を施し、観客がはっきりと聴き取れるように歌い演じる能力が飛躍的に高まり、素晴らしい舞台をみせた。


びわ湖ホール新芸術監督の阪哲朗が京都市交響楽団から引き出した「ばらの騎士」の芳醇でしなやかな管弦楽、新国立劇場オペラ研修所の「カルメル会修道女の会話」が久しぶりに味わわせてくれたプーランクの深遠な世界もそれぞれ見事だった。日本語による創作音楽劇に独自のスタイルを確立したオペラシアターこんにゃく座は依然好調、小泉八雲没後120年を記念した「神々の国の首都」もしみじみとした余韻を残した。石川県立音楽堂の邦楽ホールで上演されたメノッティのエイリアン(異星人)オペラは東京文化会館制作のオリジナルに比べ金沢の特性をより意識、創作落語と組み合わせたことで「笑い」の敷居を低くすることにも成功した。地域色に根ざした柔軟な対応が作品の価値を一段と高めた好例だった。


地域密着といえば広島、九州、金沢、群馬、名古屋のオーケストラの東京公演も3月に集中した。かつての東京一極集中は緩み、今はどの街の楽団にも独自の個性と安定した演奏水準が備わっている。それぞれ指揮者との相性や選曲にも様々な感想を抱いたが、招待席の配置にはオーケストラに対する地元自治体やスポンサー企業の意識というかセンスの違いが現れた。歴代音楽監督の指揮者や音楽界のお歴々を1階最後方に押しやり、国会議員や県関係者のゾーンを真ん中に設定したものの空席が目立ったり、作曲家の席をとんでもない端っこに置いたり…といった発想から、東京のオーケストラはさすがに卒業している。


ピリオド楽器のショパン演奏と組み合わせた18世紀オーケストラ久しぶりの来日、キリスト教復活祭週間の聖金曜日当日にJ・S・バッハ「マタイ受難曲」を演奏した鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパンそれぞれを聴いて実感したのは、ピリオド楽器による歴史的情報に基づく演奏(HIP)の進化と安定。技術が目覚ましく向上した一方、エキセントリックな表現が影を潜め、ごく自然で普通の演奏として、ダイレクトに作品と向き合える状況の進展に感慨を覚えた。


閲覧数:381回0件のコメント

Comments


bottom of page