世界最古のオーケストラとされるドイツのザクセン州立ドレスデン歌劇場の管弦楽団、ゼクシッシェ・シュターツカペレ・ドレスデン(SSD)が首席指揮者クリスティアン・ティーレマンとともに創立470年記念(!)のアジアツアーに臨み、シューマンの交響曲4曲を携えて来日した。10月31日、サントリーホールの初日は番号そのままに第1番「春」、第2番の順で演奏、アンコールなしのすっきりした展開だった。聴き終わった今なお謎なのは、前半と後半の出来栄えに(極端にいえば)天地雲泥の落差があったことだ。
第1ヴァイオリン14人、第2ヴァイオリン12人、ヴィオラ10人、チェロ8人、コントラバス6人の弦5部に打楽器、金管と木管が2人ずつでトロンボーンのみ3人という原典志向の楽器編成。第1番は「春」の副題が示す溌剌とした印象に乏しく、鳴りの悪い弦、不揃いの木管、ブラスバンドみたいに張り出してしまう金管、力任せのティンパニなど、どうも具合が悪い。弦のトゥッティ(総奏)の最後をネットリ引き延ばすティーレマンに特徴的なテヌートの後、管楽器のソロになると音楽が急に萎んでしまう。アンサンブルの傷も散見され、とてもとても、2年前の同じホールで聴いた「ラインの黄金」(ワーグナー)の素晴らしいオーケストラと同一の団体とは思えなかった。当然、客席の反応も通り一遍で終わった。
ところが、どうだろう。休憩後の「第2番」は「第1番」よりティーレマンとの相性が良くなさそうな作品との先入観を持っていたにもかかわらず、圧巻の演奏に一変した。時差ボケが急に解消したとも思えないし、管・打楽器で首席奏者が交代した結果だけでもあるまい。すべてが「あるべきところ」に収まり、アンサンブルの密度が増し、感覚的には2倍くらいに音量が増した。まさに「エンジン、全開しました!」状態。ティーレマン自身の没入度も明らかに高まり、第2楽章の狂気を克明に追ったのに続き、第3楽章ではシューマンの孤独や哀感、ロマン派特有の感傷を深く掘り下げていて、新たな境地まで披露した。フィナーレはエネルギッシュでマッチョなティーレマン「節」が炸裂し、圧倒的な結末に至った。客席も前半と打って変わって熱狂して拍手鳴り止まず、楽員が舞台を去った後、ティーレマンが呼び戻される「お立ち台」現象も。底力までフルに発揮した状態のSSDは、やはり凄い。
先日、過去25年分の取材ノートを整理していて、ティーレマンに初めてインタビューしたのは1993年7月で、PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)にサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団を率いて初来日した折だったと確認。その数ヶ月後、ベルリン・ドイツ・オペラの日本公演に同行して再来、「ローエングリン」(ワーグナー)を振って期待のオペラ指揮者の評価を定めたのだった。当時の「若手」も来年60歳となる。
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