今月のパフォーマンス・サマリー(2023年9月)
1日 平山素子 × 笠井 叡「フーガの技法」を踊る(横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)⭐️
2日 「AI芸術の先駆と拡張」〜自動ピアノ・四分音・生成AI〜(旧東京音楽学校奏楽堂)
3日 オペラ・ノヴェッラ プッチーニ「ラ・ボエーム」(ハーモニーホール座間)
5日 エリック・シューマン(Vn)&江口玲(Pf)(浜離宮朝日ホール)
6日 安江佐和子(Perc)&稲垣聡(Pf) (ムジカーザ)❤️
8日 サッシャ・ゲッツェル指揮東京都交響楽団、ネマーニャ・ラドロヴィチ(Vn)(サントリーホール)❤️
9日 髙橋望(Pf) (所沢市松井公民館ホール)
10日 藤原歌劇団 ヴェルディ「2人のフォスカリ」(新国立劇場オペラパレス)
12日 B→C 黒川侑(Vn)&秋元孝介(Pf)(東京オペラシティ・リサイタルホール)❤️
13日 渡辺玲子(Vn)&江口玲(Pf) (Hakujuホール)
15日 ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団 ワーグナー「《リング》オーケストラル・アドヴェンチャー」(NHKホール)❤️
16日 マリオ・ヴェンツァーゴ指揮読売日本交響楽団 ヴェロニカ・エーベルレ(Vn)(東京芸術劇場コンサートホール)
17日 オペラバフ R・シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」(調布文化会館たづくり)
18日 ローレンス・レネス指揮東京都交響楽団 タベア・ツィンマーマン(Va)(サントリーホール)❤️
22日 ギエドレ・シュレキーテ指揮読売日本交響楽団 エマニュエル・パユ(Fl)(サントリーホール)
23日 第2回ドビュッシー国際ピアノコンクール※審査員 (東京音楽大学)
24日 東京文化会館オペラBOX「Help! Help! グロンポリンクスだ!〜エイリアン襲来!!」(小ホール)
26日 西村尚也(Vn)、ニムロード・ゲズ(Va)、佐藤晴真(Vc)(ムジカーザ)
27日 中村ゆかり(Vn)&ブルーノ・カニーノ(Pf) (Hakujuホール)
29日昼 阿部加奈子指揮新日本フィルハーモニー交響楽団 三浦謙司(Pf)❤️
29日夜 アンドラーシュ・シフ(Pf)
30日 東京二期会 ヴェルディ「ドン・カルロ」(よこすか芸術劇場)
※❤️は「音楽の友」、⭐️は「オン★ステージ新聞」に批評を掲載予定
プッチーニとR・シュトラウス、メノッティを1作ずつ、ヴェルディ2作の全曲上演のほかにワーグナーの《リング》オーケストラル・アドヴェンチャー(デ・フリーヘル編)を前月のセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響に続き、ルイージ指揮N響でも聴けるなど、オペラの実りが大きかった。外国歌劇場の日本公演は観損ねたが、国内のプロダクションも頑張っている。藤原「フォスカリ」の伊香修吾、二期会「ドン・カルロ」のロッテ・デ・ベアとも黒を基調にした簡素な舞台で時代設定も現代から近未来にかけてへと変えているが、役柄の規定や性格、人間関係に一切の読み替えはなく、作品が語りかけるメッセージを現代の観客にも分かりやすい視覚で提示することに成功した。老フォスカリの押川浩士(Br)、ヤコポの杉尾真吾(Bs)、カルロ王子の城宏憲(Tn)、ポーザの清水勇磨(Br)、エボリの加藤のぞみ(Ms)ら比較的若い世代の歌手たちがしっかりとヴェルディを歌い上げたのも収穫だった。指揮にも瀬川智博(ボエーム)、中橋健太郎左衛門(アリアドネ)、田中祐子(フォスカリ)、レオナルド・シーニ(ドン・カルロ)と人を得て、活気ある上演が実現した。
ワーグナーのN響も良かったが、ルイージのレガートを基本に流れる音楽がワーグナーのガツンとした感触を損ねる部分もあり、ヴァイグレと読響に一日の長があったように思う。ゲッツェルとレネスは今後、日本のオーケストラとの関係をますます深めていきそうだ。
田中のほかシュレキーテ、阿部加奈子と女性指揮者の登場が日常化、ようやくジェンダー(性差)よりも音楽性で素直に評価する時代に至った。とりわけ、すでに中堅の域に達した阿部が日本での指揮活動をいよいよ本格化させ、真価を発揮し始めたのは注目に値する。
シューマン、ラドロヴィチ、黒川、渡辺、エーベルレ、タベア・ツィンマーマン、西村、ゲズ、佐藤、中村と優れた弦楽器奏者の室内楽、協奏曲に感心する機会にも恵まれた。大きな成熟を遂げたシューマンと黒川、円熟の渡辺とタベア、働き盛りの西村の弦楽トリオと個性の広がりも豊か。ラドロヴィチの繊細極まりないベートーヴェンの協奏曲は長く心に残る。
しかしながら「音楽そのもの」の浄化された世界をひたすら体験できた点で、シフのリサイタルは他のすべてを凌駕した。
演奏会後の「X」↓
午後7時開演で3時間あまり、少しも「長い」と感じさせず、ただただ天啓としか言いようがなかった。
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