三河市民オペラ2023年公演《アンドレア・シェニエ》(ジョルダーノ)
※キャスト&スタッフ↓
指揮者の園田隆一郎さんに誘われて石田麻子さん(昭和音楽大学)や加藤浩子さん(音楽学者)、香原斗志さん(オペラ評論家)、松本良一さん(読売新聞)ら私の知り合いが絶賛してやまない愛知県豊橋市の「三河市民オペラ」の実演を初めて体験した(5月7日公演)
合唱だけがアマチュア(三河市民オペラ合唱団)で他はプロフェッショナル、しかも日本を代表する歌手、練達のオペラ指揮者、センスのいい演出家をずらりと揃えている。キャストは全員、お客様を入れた公開オーディションで選ぶので全くフェア、地元経済界が物心両面から支えるために赤字を出さずに完売、出演者が〝ノルマ〟のチケットを売る必要もない。
高岸未朝の演出はフランス革命の時代の節目、キーパーソンを字幕で手際よく説明、円柱を象徴的に動かして社会の変化を描き、背景の映像(栗山聡之)が状況説明を補足する。合唱の皆さんもアマチュアとは思えないほど、克明に演技をこなす。園田の指揮はヴェリズモ(現実主義)の生々しさを敢えて強調せずに歌を満遍なく支え、ジョルダーノのスコアに潜むアイデアの数々を丁寧に再現、ごくごく自然に感興を盛り上げていく。副指揮の1人、佐藤光は2012年、私がエグゼクティヴプロデューサーを務めた福島県会津若松の創作オペラ《白虎》(加藤昌則)の初演オーケストラで、チェロを弾いていて知り合った。懐かしい!
ダブルキャストは初日がややリリック、2日目がよりドラマティックと声の傾向が異なり、園田は2つの異なるヴァージョンを楽しんだはず。7日はほぼロブストの域に達した笛田博昭(テノール)の題名役、ようやく「まさかのワーグナー代役」の声の後遺症を克服した小林厚子(ソプラノ)のマッダレーナ、いつも華と力の調和が見事な今井俊輔(バリトン)のジェラールが三つ巴の絶好調。ベルシの加賀のぞみ(メゾソプラノ)、ルシェの池内響(バリトン)、マテューの杉尾真吾(同)、密偵の中井亮一(テノール)ら脇を固める面々も強力で引き締まったアンサンブル。主役2人(笛田、小林)がアリアの際、概ね正面を向いて両腕を広げるプリモ&プリマのステレオタイプ演技に徹したこともあり、久々に偉大な声の饗宴がすべてを制する巨艦大砲型のイタオペ(イタリア歌劇)の王道を味わうとができた。
この入念で気合いのこもった上演を毎年できるわけがなく、コロナ禍もあって三河市民オペラとしての全曲舞台上演は2017年の《イル・トロヴァトーレ》(ヴェルディ)以来6年ぶり。敢えて言えば適当なもの、地縁血縁や情実の人選、過剰なチケットノルマに何の矛盾、罪悪感を抱かないまま毎年の上演にしがみつくより、遥かに筋が通っている。「三河市民オペラを体験せずして、地域オペラを語ることなかれ」と言われる理由がわかった気がした。
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