
2025年1月22日、東京オペラシティコンサートホールで初演された「THE GHOST」。人生に疲れ死を意識する年老いた俳優(橋爪淳)が「ハイリゲンシュタットの遺書」(不治の耳疾に絶望し書き始めたにもかかわらず途中で神から授かった崇高な芸術の使命に立ち帰り、最後はさらなる創作への意思を新たにした世にも不思議な〝遺書〟)を書いた直後の青年作曲家ベートーヴェン(吉武大地)、すべてに行き詰まり葛藤する若き日の俳優自身(吉田知明)という2人のゴーストとの対話を通じ「生きる」意味を回復していく。前半は古希を超え一層の輝きを放つ和太鼓のレジェンド、林英哲とコンポーザー&ピアニストの新垣隆の即興パフォーマンス。後半が本編で吉田が脚本演出、新垣が音楽監督を担い、24歳の時に遭った交通事故で左脚膝下を失った不屈のダンサーの大前光市が加わった。ベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲第5番《幽霊》」にインスピレーションを得た音楽は新垣の書き下ろし。最初はホールが巨大すぎる、吉武と吉田の滑舌が橋爪に比べて劣る、クラシック音楽やベートーヴェンに詳しくない人に対する「ハイリゲンシュタットの遺書」の説明が足りない……
などなど、ライヴに接している間は今まで観てきたストレートプレイやミュージカル、オペラ、シアターパフォーマンスの残像に阻まれ、ネガティヴな印象が先行した。ところが一夜明けたら、なぜか新たな活力を授かったポジティヴな思いばかりがこみ上げてくる。アンチエイジングといった甘い次元を突き抜けた林の飽くなき挑戦、ハンディを逆手にとってダンスの新しい地平を切り拓く大前の気概、文字通りの「ゴースト」ライター騒動を乗り越えクリエイターとして高い評価を得るまでの新垣の闘い、大腸癌と〝共生〟しながら舞台に立ち続ける橋爪の死生観、オペラの狭い枠組みから飛び出してもがく吉田と吉武の奮闘のそれぞれが一夜の舞台上で交差、私たちそれぞれに何かのエネルギーを与えたのは確かなようだ。
Comments