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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

OEKと古希の弾き振り、渡邉康雄の「ベートーヴェン ピアノ協奏曲の世界」


今年は日本フィルハーモニー交響楽団の創立指揮者、渡邉暁雄の生誕100年に当たる。長男でピアニスト&指揮者の渡邉康雄もまた、古希(70歳)を祝う。私が学生のころ、何度か親子共演、あるいは岩城宏之らとの協奏曲を聴いたが、大柄な体躯そのまま、ダイナミックでスケールの大きいピアノソロだったと記憶している。


2019年3月17日の紀尾井ホール昼公演。オーケストラ・アンサンブル金沢を弾き振りしての記念演奏会は、ベートーベンの「協奏曲第1番&第5番《皇帝》」を弾き振り。アンコールには父が得意にしていたサン=サーンスの「同第5番《エジプト風》」の第3楽章と、協奏曲尽くしのマチネだった。


渡邉のピアノを実演で聴くのは本当に久しぶりだった。メカニックが衰えていないことに先ず、感心する。若いころ、時に過剰かと思えたパワー志向は影を潜め、長年弾き込んできた作品を慈しむかのように歌わせ、陰影の味わいに富んだアプローチが前面に出てきた。技巧の難易度からいえば、「皇帝」の方が難しいのかもしれない。だが会場で販売していたプログラムの最終ページに載った演奏記録をチェックすると、第1番は1992年からの8回で、うち6回が弾き振り。「皇帝」は1976年に始め、父をはじめとする指揮者とのソロでの共演が18回、弾き振りが7回、自身が指揮者として他のピアニストと共演したのが3回と、演奏経験の差が歴然だ。果たして第1番は曲想もあってか、いささか和気藹々が過ぎ、すべてが平穏無事に終わってしまった。「皇帝」では光景が一転、ピアニスト渡邉と指揮者渡邉の2つに人格が(もちろん良い意味で)分裂し、ピアノとオーケストラが丁々発止の対話を繰り広げた。両端楽章での技の冴えはもちろん、緩徐楽章の真珠がキラキラ輝き、球を転がすようなタッチと深い呼吸には、円熟の印がしっかりと刻まれていた。


アンコールは、シベリウスや日本の新作とともに、フランス音楽を得意とした父へのオマージュのようにも思え、楽しく、輝かしかった。ピアノのふたを外して中央に置き、対向配置のオーケストラが囲み、客席に背を向ける形で弾き、指揮をする。演奏中はメガネをかけていて、ある時に真横を向いた瞬間、「暁雄先生に似ている!」と感じた。長身こそ受け継いだものの、半分フィンランド人の父親に比べると、より日本人の風貌だと長く思ってきたのだが、やはり、親子はどこかで似るものなのだと、妙なところで納得してしまった。

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