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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

40年来の人の縁〜沼尻指揮日本フィルと渡辺玲子の内田洋行111周年演奏会

更新日:2022年1月30日


最後の1文書きたさに…

日本フィルハーモニー交響楽団第235回芸劇シリーズ〜内田洋行 創業111周年記念 クラシック・スペシャル(2022年1月29日、東京芸術劇場コンサートホール)

指揮=沼尻竜典、ヴァイオリン=渡辺玲子※、コンサートマスター=扇谷泰朋

ドヴォルザーク「序曲《謝肉祭》」

ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」※

ソリスト・アンコール:パガニーニ「《ネル・コル・ピウ(うつろな心)》による変奏曲」

ブラームス「交響曲第1番」

アンコール:ブラームス「《ハンガリー舞曲》第1番」


日本フィルがプレトーク(沼尻とのかけあい)と楽曲解説執筆を依頼した時点で、スポンサーの内田洋行と私の深い縁(えにし)を知る由もなかったと思う。1981年に日本経済新聞社に記者として就職、企業取材の部署でオフィス家具や住宅設備機器の業界を担当した折、最初に訪問した会社の一つが内田洋行だった。そのワンステップ手前、大学の卒論のテーマは「日本フィルの解散・分裂事件に際しての報道分析」。コミュニケーション担当のゼミに属していたとはいえ、音楽をテーマに政治学士号を取得したのはかなりの〝反則ワザ〟だったかも。学生席で日本フィルの定期会員に加わり、卒論のために事務局へ出入りするようになってからでも、43年が過ぎた。指揮者の沼尻を最初に取材したのは1993年、彼が29歳の時だった。ヴァイオリンの渡辺は天才少女として早くから存じ上げていたが、日本フィルの1996年ヨーロッパ公演に同行取材した際、ソリストの1人だった関係で親しくなった。さらに言えば、15年ほど前に内田洋行のオフィス事業で部長だった男は大学同期、その当時広報だった女性は今も広報にいて今日のホールで久しぶりに一堂に会し、帰りのビールをご一緒した。


こんなにたくさんの「ご縁」が一点に重なった演奏会は珍しいし、何か特別なものに思えた。非常にシンプルなプログラムながら世代交代に成功しつつある日本フィルの演奏力向上、「僕からは炎を出しませんから、皆さんよろしく」といいつつ見事にオーケストラを燃焼させる沼尻の円熟が噛み合い、非常に聴きごたえのある名曲コンサートとなった。渡辺のブルッフは快刀乱麻の上をいくクール&ビューティー。無駄口を一切たたかず、作品の持ち味をマックスまで引き出していく。アンコールの超絶技巧には唖然。それでいて、絶えず知性の輝きをみせる奥行きが、稀にみる円熟を存分に物語っていた。沼尻が指揮する管弦楽もサポート以上の積極性をみせて立派だったが、後半のブラームスではさらに上の水準を達成した。余計な媚びを交えず、音のバランスや和声を整えながらキビキビ進むのは従来からの美点。最近はオーケストラを自在に動かす恰幅の良さを増し、自然な燃焼に持ち込む手腕が際立って進化した。これだけすっきりしていて、ガッツリくる「ブラ1」は滅多にない。


アンコールの際、沼尻はマイクを持ち「ブルッフ、ブラームスとも1番でしたが、111には『1』が1つ足りませんので、アンコールで《ハンガリー舞曲第1番》を演奏、111周年のお祝いとさせていただきます」とアナウンスした。これがまた、びっくりするほどの熱演。私も冒頭に掲げた楽曲解説最後の1文でついに、和田アキ子と「ブラ1」の〝秘めたる関係〟を書くことができて、良かった。まさか、ここでも三枝成彰が一枚かんでいたとは!

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