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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

20年の絆を確かめたチョン・ミョンフンと東京フィル、心に響くブラームス


Bunkamuraオーチャードホールは今も東京フィルのフランチャイズ(本拠)の位置付け

チョン・ミョンフンは2001年、東京フィルハーモニー交響楽団のスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーに就いて以来、桂冠名誉指揮者、名誉音楽監督とタイトルを変えながら一貫して同フィルとの共同作業を続けてきた。発端は1999年に旧新星日本交響楽団の招きに応じたことで、同響が2001年に東フィルと合併、そのまま指揮者チームに加わったのだった。「東フィルのマエストロ」としては今年が20周年の節目に当たるが、「そもそも」から数えると22年。今や「世界でミラノ・スカラ座、ヴェネチア・フェニーチェ座、東フィルの3箇所だけは、自分からキャンセルすることはない」の関係を築いた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大が加速し始めた2020年2月、「カルメン」(ビゼー)全曲の演奏会形式上演で破格の名演を披露したのを最後に、ミョンフンは東フィルの指揮台に立てず、マーラーの「交響曲第2番《復活》」などの公演が幻に終わった。2021年7月の定期は両者にとって1年5か月ぶりの公開演奏に当たり、2009年以来12年ぶりのブラームス「交響曲全曲(第1ー4番)」シリーズの前半という記念碑的な曲目を披露した。


私は3日目に当たる7月4日、第957回オーチャード定期演奏会をBunkamuraで聴いた。「第1番」は何故か疲れ気味の雰囲気で始まったが次第に熱を帯び、最終楽章の大らかな歌が緩急自在に変容し、大団円になだれ込むあたりの息の合い方に、長年のコンビの信頼関係を実感した。東フィルとの関係が始まったころ、マエストロが「(音楽を)掘り込め掘り込め、もっと深く!」と言い続け、楽員がスコップをプレゼントしたエピソードを思い出すまでもなく、十分に彫り込み、意思を通わせた演奏である。緊張と弛緩を良い意味で兼ね備えた両者の音楽は「第2番」の穏やかな自然観照や率直な明るさ、美しく溶け合う音色により適していて、とりわけ第4楽章で他に類例のない境地の即興性と高揚に結実した。細かな乱れすらリスクを最大限にとり、果敢に作品に入り込んだ裏返しだと、好意的に受け止めた。


9月の「第3番」「第4番」への期待は大きく高まり、万難排しての実現を祈りたい。

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