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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

20世紀歌劇に収穫 ウィーンはウィーン

今月のパフォーマンス・サマリー(2023年11月)


主催者と街は違うが、デザインに共通の傾向

1日 汐澤安彦指揮パシフィックフィルハーモニア東京 (東京芸術劇場)❤️

4日 セミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(横浜みなとみらいホール)❤️

5日 第9回静岡国際オペラコンクール本選 (アクトシティ浜松大ホール)❤️

6日 没後130年命日・チャイコフスキー3大協奏曲(サントリーホール)❤️

6〜9日 芸劇オーケストラ・アカデミー・フォー・ウィンド&パリ管弦楽団メンバー「特別アカデミー」密着取材 (東京芸術劇場リハーサルルーム)

11日 大阪国際音楽コンクール入賞者ガラ・コンサート(ウィーン音楽・表現芸術大学旧コンサートホール)

12日 ウィーン国立歌劇場モーツァルト「フィガロの結婚」(コスキー演出、A・フィッシャー指揮)⭐️

14日 ウィーン国立歌劇場リゲティ「ル・グランマカーブル」(ロワース演出、エラス=カサド指揮)⭐️

17日 ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団、ゲルハルト・オピッツ(ピアノ)(東京オペラシティコンサートホール)

19日 トゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ライナー・ホーネック(コンサートマスター&ヴァイオリン・ソロ) (サントリーホール)❤️🍏

20日 キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、樫本大進(コンサートマスター&ヴァイオリン・ソロ)(サントリーホール)🎻

21日 キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (ミューザ川崎シンフォニーホール)🎻

22日 アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (サントリーホール)

23日 新国立劇場ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」(オーディ演出、大野和士指揮)(オペラパレス)🌞

24日昼 東京二期会「午後の曳航」(宮本亞門演出、アレホ・ペレス指揮)(日生劇場)

24日夜 小泉和裕指揮東京都交響楽団、イノン・バルナタン(ピアノ)(東京文化会館大ホール)

25日午前 平石章人&湯川紘恵指揮NHK交響楽団ゲネプロ (NHKホール)

25日午後 東京芸術劇場J・シュトラウス「こうもり」(野村萬斎演出、阪哲朗指揮) (東京芸術劇場コンサートホール)

25日夜 湯山玲子プロデュース「ツバメノヴェレッテ ~コトリンゴ×首藤康之×オーケストラで送る新時代のダンス交響詩」(阿部加奈子指揮)(東京文化会館大ホール)

26日 ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン J・S・バッハ「ヨハネ受難曲」(東京オペラシティコンサートホール)🐶

27日 ベルリン・フィル八重奏団 (東京オペラシティコンサートホール)🐶

28日 ベンヤミン・アップル(バリトン)&ジェイムズ・ベイリュー(ピアノ)「魂の故郷」 (浜離宮朝日ホール)❤️

30日 高関健指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団プッチーニ「トスカ」(定期での演奏会形式)❤️

※❤️は「音楽の友」、🍏は「モーストリー・クラシック」、⭐️は「オン★ステージ新聞」、🎻は「サラサーテ」の各紙媒体、🐶は「毎日クラシックナビ速リポ」、🌞は平凡社「太陽web」の各ネット媒体にそれぞれ執筆


2023年11月は月初めの3日(文化の日)にアマチュアのピアノコンクール「エリーゼ音楽祭」審査員と東京芸術劇場&フィルハーモニー・ド・パリ(パリ管弦楽団が本拠を置く複合文化施設)の共同プロジェクト第1回「特別アカデミー」の4日間密着取材、中旬に4年ぶりのウィーン5泊、下旬に「国際声楽コンクール東京」の本選審査員と、いつもとは異なるスケジュールで臨んだ。ウィーン到着当日の夜、バスタブから出た途端に浴室の濡れた床に足元をすくわれて滑り顔と左脚の膝を強打、額から血が出て、首から肩、腕、手の平に痛みと痺れが走った。ホテルのフロント(若い女性)が驚いて救急搬送を依頼。生まれて初めての救急車に乗り、スロヴァキアに近いドナウシュタットの病院まで運ばれた。怪我は大したことなくテーピング処置と破傷風予防の追加接種を受け、処方箋をもらって落着。日本へ届いた請求書は救急車が11万円、治療費が8万円くらい。保険でカバーできるとはいえ、海外の医療費は高い。皆さんも気をつけてくださいね。日程は翌日のガラ立ち会いから全く滞りなくこなせ、何より素晴らしい出会いがたくさんあったので、結果は実り多い旅だった。


とりわけ国立歌劇場(シュターツオーパー)で観た2演目は印象に残る。今までは日本公演主催者側の音楽担当編集委員として、平土間のプレス席を用意されることが多かったが、今回は日本からインターネットで「座席お任せ」各62ユーロ(約9,700円)と安めのチケットを購入、「フィガロ」が3階正面、「マカーブル」が2階サイドだったが音響は平土間よりも良く、客席全体の反応も観察できるので全く悪くない。モーツァルトは日本ツアー留守番組の首席たちが達者に弾いてウィーンならではの音を放ち、リゲティではエラス=カサドの傑出した能力を再確認した。鬼才コスキーが「フィガロ」を偏愛するあまり次第にダ・ポンテ&モーツァルトと闘いを諦め、大きめの舞台で整然と演出されたリゲティが〝牙〟を抜かれてしまう様を観るにつけ、宮廷劇場以来の伝統的ハウスのプロセニアム(額縁)が持つ伝統の呪縛の強さを思った。若手中心の再演だった「フィガロ」は「自分が頑張らないと」と奮起したのか、いつもあまり感心しなかったフィッシャーの指揮が冴えまくっていた。


この月はウィーン、ベルリンの両雄だけでなく、私が聴き損ねたアムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ、ハンブルクのNDRエルプフィルも含め、空前のオーケストラ来日ラッシュ。シュターツカペレ・ドレスデン、イスラエル・フィルが日本ツアーを中止した。2019年に芸術監督・首席指揮者に就いたキリル・ペトレンコと最初の日本公演に当たったベルリン・フィルは期待を大きく上回る成果で、21世紀のオーケストラ表現の最先端を示した。ウィーン・フィルとライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団もそれぞれに固有の音を維持していたが、グローバル化の圧力には抗えない。独自性の維持が課題と思えた。輸入超過にもひるまず、ウィーンに負けないリゲティ、ブーレーズを奏でたノットと東響、遅れてきた巨匠の底力をみせつけた汐澤安彦とPPT、プロコフィエフの「交響曲第5番」、プッチーニの「トスカ」と、かつてベルリン・フィルのアシスタントとして仕えたカラヤンの十八番を徹底して究めた小泉&都響、高関&シティ・フィルの強烈な演奏が光った。N響が92歳の老巨匠フェドセーエフの代役に2人の指揮研究員を抜擢した措置は賛否両論(ほとんどが否定的)をもたらした。湯川の代役!としてスポンサー賛助会員向けゲネプロの解説イアホンガイドを引き受けた立場なので多くを語るのは控えたいが、巨匠&スター崇拝が一歩間違えるとカスタマーハラスメント(消費者の側からの嫌がらせ)になりかねないリスク、あるいは恐怖を覚えた。定期演奏会はあくまでオーケストラ主催、中止は原則あり得ない。


国内のオペラでは「午後の曳航」がペレス指揮新日本フィルの玲瓏克明な音楽、比較的若いキャストの熱演で予想以上の成果を上げた。新国立劇場の「シモン・ボッカネグラ」新制作は「悪くも、とびきりでもない」水準。詳しくは「太陽Web版」の拙稿をご覧ください。野村萬斎演出の「こうもり」。ウィーンのレオポルト美術館、応用芸術美術館でウィーン工房時代のジャポニスム(日本趣味)の美術工芸を久しぶりで大量に鑑賞した直後の身には、ちょっと辛かった。ウィーン経済のバブル崩壊で風紀が乱れ、不倫が横行した時代のエロスの放射を日本人の肉体に期待するのは無理として、思い切ってお笑いに振り切りたい意図は理解できる。しかしながらギャグのセンスが平成を通り越し、あまりに昭和なのは参った。その中でオルロフスキーの藤木大地(カウンターテナー)、ファルケの大西宇宙(バリトン)の2人が全身に妖しい雰囲気を漲らせ、作品の本質を突いていたのはあっぱれだった。




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