2018年9月12日・東京芸術劇場コンサートホール
アレクサンダー・ガヴリリュク(ピアノ)
ヴァレンティン・ウリューピン指揮東京交響楽団
ウクライナ出身のガヴリリュクは2000年、16歳で浜松国際音楽ピアノコンクールに優勝して以来、日本でも人気の高いピアニストだ。恩師の後を追って13歳でオーストラリアへ。20代前半のころ、一度インタビューした。どこまでも誠実に音楽と向き合う姿勢の背後に熱く、強い意思を感じたのを覚えている。その後、交通事故に遭って脳挫傷となり再起不能を危惧されたが、持ち前の不屈の精神で見事に生還、現在は若手屈指のヴィルトゥオーゾ(名手)となった。
いくら技巧、音楽性に恵まれていたとしてもチャイコフスキーの第1番、プロコフィエフの第3番、ラフマニノフの第2番と、名曲中の名曲を3つも並べ、一晩で弾ききるのは至難の業に違いない。中途半端なヴィルトゥオーゾなら、技巧的課題の克服で事足れりとするところ、ガヴリリュクは完璧な技術を土台(!)にチャイコフスキーのロマンと野趣、プロコフィエフの風刺が効いたモダニズム、ラフマニノフの文字通り鐘を鳴らすようなカンタービレのそれぞれを打鍵、音色、様式感など多角的な視点から描き分け、単調に陥る愚を避けた。
もう1つの驚きは、主催のジャパン・アーツが「青田買い」のリスクを冒して初来日させたロシア人指揮者、ウリューピンだ。来年の初来日が早い時期から注目される、ロシアでキャリアを築いたギリシャ人指揮者のテオドール・クルレンティスのアシスタントとしてペルミ歌劇場ムジカエテルナの指揮者を務め、昨年の第8回ショルティ国際コンクールで優勝した。2メートル近い長身なので指揮台を使わず、リズムを際立たせる楽章では指揮棒を使い、歌の流れを求められる楽章では使わない。東京交響楽団はロシアの協奏曲の伴奏ではかなり珍しい対向配置。3人の作曲家の描き分けはピアニストに負けず劣らず確かな上、早めのテンポなのに旋律をたっぷりと歌わせ、クライマックスまでの息の長いストロークを保つあたり、かなりの逸材とみた。
©音楽ジャーナリスト@いけたく本舗
Comments