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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

髙橋望「ゴルトベルク変奏曲」の2021



埼玉県秩父市出身、独ドレスデン音楽大学でペーター・レーゼルに師事したピアニスト、髙橋望は毎年1月にJ・S・バッハ《ゴルトベルク変奏曲》の演奏会を開き重ねてきた。私は2年前が風邪、1年前がドイツ出張で聴き損ね、2021年1月17日、東京オペラシティリサイタルホールが3年ぶりの実演鑑賞となった。ピアノはベーゼンドルファー。繰り返しを実行し休憩なしの1時間25分で弾き終えた。「3月に発売予定のバッハシリーズ第3作のCD《パルティータ集》の前触れを兼ねたアンコール」として、第4番から《サラバンド》を追加した。プログラム解説書は毎年筆者が替わり、何年か前に引き受けて下さったバッハ研究者、樋口隆一先生の姿を客席に見つけたので声をかけると「最近、髙橋君とは仲良しなんだよ。《パルティータ集》のライナーノートも書いた」と、嬉しそうに報告された。仲よきことは幸いなり。毎年コツコツ取り組みながら、人脈も着実に広げてきたようだ。


たまたま過去2回を逃したことで、かえって変化を実感できたのかもしれない。ピアノを弾くメカニックの部分は一段と安定して洗練の度を上げ、美しく透明で、変幻自在の音色が精確な打鍵から紡ぎ出されていく。無限の音のニュアンスが感知され、退屈する瞬間を与えない。さりとて無駄口はたたかず、〝語数〟は以前に比べて徹底的に絞られ、必要最小限のボキャブラリーで最大限の効果を発揮する。弾き手の恣意、あるいは過剰な意識はとことん排除超越されているので、聴き手はバッハの音楽、作曲の妙を、あたかも自作自演のような解像度と距離感で楽しむことができる。これから先、どのように〝変奏〟するかも楽しみだ。

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