• 池田卓夫 Takuo Ikeda

青柳晋&務川慧悟のピアノデュオ、そしてオペラ彩「カルメン」プレコンサート


週末にかけて、とても長いお付き合いの演奏家たちを次々に聴いた。


1)自主企画シリーズ「リストのいる部屋(Ein Zimmer mit Franz Liszt)」Vol.15

青柳晋&務川慧悟ピアノ・デュオ・コンサート

(2020年12月18日、Hakujuホール)

東京芸術大学音楽学部教授の青柳(51歳)がピアニストのライフワークとして続ける「リストのいる部屋」の15回目は初めてゲストを迎え、2台ピアノの演奏会となった。2019年のロン・ティボー・クレスパン国際音楽コンクールのピアノ部門で第2位を得た務川(27歳)は、青柳が「今までに最も刺激を受けた元クラス生の一人」という。「牧神」と「ドン・ジョヴァンニの回想」は青柳、「春の祭典」と「レ・プレリュード」は務川が第1ピアノを担当し、「パリ・バレエ界を揺るがせた傑作」4曲を並べた。師弟関係にあるとはいえ、2人の全く個性を異にするソリストの華やかな〝ぶつかり合い〟を存分に楽しめた。


とりわけセコンドに回る場合に鮮明となる青柳の特色は、ドイツ的といえる揺るぎない構成感を土台にした低音の支え、リズムの堅固さにある。「春の祭典」での低音の連打の凄まじさを聴き、「ああ、ここを弾きたくてセコンドに回ったのだな」と勝手に納得した。対する務川も非常に洗練されたメカニックを備え、超絶技巧曲を難なく弾きこなす点では青柳と共通する。独特の音の煌めき、色彩感、しなやかな運動性が絡み合った唯一無二の音楽性の持ち主であり、青柳が整えた舞台の上で自由自在に踊るダンサーのような趣もあり、面白い。


「リストのいる部屋」を名乗る以上、主役はリストにせざるを得ず、確かに「ドン・ジョヴァンニの回想」は大いに盛り上がった。若い務川の白熱に対し「まだまだ負けませんよ」とばかり、テクニックの限りを尽くす青柳の強烈な追い上げも見事に決まった。半面、作品的には最もセンセーショナルな「春の祭典」が前半に置かれ、後半をにらんだペース配分か、あるいは師弟が手を携えての模範演奏への使命感か、とりわけ第2部「生贄の儀式(夜)」がゆっくり目のテンポ、縦の線に気を配り過ぎたのは残念だった。アンコール2曲目(最初はミヨーの「スカラムシュ」)に披露したラフマニノフ「組曲第2番」第4楽章「タランテッラ」での弾け方は凄まじい。「春の祭典」も「この調子でやって欲しかった」などと考えるのは、もはや欲深な聴き手の妄想と自己批判したくなるほどに、高水準のデュオだった。


2)オペラ彩第37回定期公演「オペラ《カルメン》プレコンサート」(特別企画)

(2020年12月19日、和光市民文化センター《サンアゼリア》大ホール)

佐藤正浩(指揮・ピアノ)、直井研二(構成・演出)、和田タカ子(総合プロデューサー)

主宰の和田とは、まだ朝霞オペラ振興会と名乗っていた時代、茨城県日立市で開かれた全国オペラフォーラムで知り合った。当時の私は同じ東武東上線沿いのふじみ野に住んでいたので早速公演を観に行き「意欲は買うけど、指揮者や歌手の人選がイマイチ」と、あまりに率直な感想をお伝えしたのが運の尽き?。当時の若手指揮者やベテラン歌手をご紹介する形で一時、オペラ彩の公演を手伝っていた。かれこれ20年、様々なオペラ・プロジェクトで手を携えてきた指揮者&ピアニストの佐藤正浩も、私が彩に引っ張りこんだ1人だ。


37年目の今年は「カルメン」を上演する予定だったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で2021年12月へと1年順延、代わりにダブルキャストの歌手全員が衣装をつけ、演出の直井が簡単なステージングを施したコンサートを開催。佐藤は指揮とピアノ(!曲だけ)を受け持った。直井は現場のベテランらしく、最少限の装置と照明でオペラの感触を醸し出す。歌手たちはそれぞれ全力投球で臨んだが、コロナ禍にも様々な発信を絶やさず歌い続けてきた人、自宅待機に徹した人の違いがそのまま、舞台上の動きや演奏の精度に反映されたのは仕方ない。とりわけ2人のカルメンーー鳥木弥生と丹呉由利子、2人のホセーー樋口達哉、小野弘晴、ミカエラとムゼッタを担った鷲尾麻衣らの歌が印象に残った。間奏曲のフルートを吹いた泉真由は地域創造の派遣演奏家オーディションや昨年の日本フィル欧州ツアーへのエキストラ参加などを通じ、よく遭遇してきた奏者だが、まさか和光でも聴けるとは思わなかった。


和田の解説はオペラを初めて聴く人にも、わかりやすかった。埼玉県といっても池袋から電車で15分足らず、東京都練馬区の隣の和光市でゼロから地域オペラを立ち上げ、37年も率いてきた実績は、上演ごとの様々な評価を超えて立派なものだ。中止ではなくコンサート、それでもオペラの雰囲気を残した意地?も素直な評価に値しよう。

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