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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

野平&オーケストラ・ニッポニカ「チェレプニン伝説」で伊福部昭とバラキレフ


左は札響東京公演(2月8日、サントリーホール)のプログラムから

「芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカ」第39回演奏会を2022年2月13日、紀尾井ホールで聴いた。「チェレプニン伝説ーローカリティーの追求ー」と題し、ミュージック・アドヴァイザーの野平一郎が指揮した。サンクトペテルブルク生まれの作曲家アレクサンドル・チェレプニン(1899ー1977)はパリ亡命後の1934ー1937年にアジアを歴訪、1936年の横浜滞在中、前年に「日本狂詩曲」で「チェレプニン賞」第1位を得た伊福部昭(1914ー2006)を北海道から呼び寄せ、1か月にわたって作曲法、管弦楽法のレッスンを無償で行った。「ローカリティーを追求することこそ、普遍性を獲得する道だ」と説くチェレプニンが、「民族性を交響曲の形式を融合させるのは容易でない」好例に挙げたのは完成までに33年を費やしたバラキレフの「交響曲第1番」(1897)だったという。伊福部は無償レッスンへの返礼の意味もこめ、翌年(1936年)に「室内オーケストラのための土俗的三連画」を作曲した。ニッポニカはエピソードに従い、伊福部の2曲とバラキレフを組み合わせたが、後者の「交響曲第1番」は昨年末に大阪で日本初演されたばかり、今回が東日本の初演奏に当たった。チェレプニン作品だけは「伝説」ゆえか、演奏されなかった。


5日前の2月8日(伊福部の命日)はユベール・スダーン指揮札幌交響楽団が東京公演(サントリーホール)で、「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」を山根一仁のソロとともに演奏したばかり。伊福部作品のファンには、至福の1週間だったはずだ。土俗性や地域色に根ざしつつ、世界の誰が演奏したり聴いたりしても納得できる音楽を伊福部は書いた。「日本狂詩曲」はナクソスの「日本作曲家撰輯」第1作「日本管弦楽名曲集」にも選ばれ、企画発案者の1人である私は伊福部と一緒に沼尻竜典指揮東京都交響楽団の録音セッションに立ち会った。その経緯は「レコード芸術」誌2022年2月号「レコード誕生物語」第50回に書いたので、機会があれば、お読みください。野平とニッポニカの演奏は伊福部が選んだ打楽器も持ち込み、作曲の妙を曇りなく再現した。「土俗的三連画」はかなり小編成で、個々の奏者の力量が問われるが、アマチュア中心のチームとは思えない腕の冴えをみせた。


バラキレフは演奏時間50分に及ぶ大曲。心に浮かんだ限りの楽想すべてを盛り込んだ過剰感は、実にロシア的(チャイコフスキー最初の交響曲、「第1番《冬の日の幻想》」にも一脈通じる)だ。途中かなりダレる場面もあるが、美しさきわまりない第3楽章から切れ目なく続く第4楽章のロシア民謡てんこ盛りにかけてはそれなりの魅力に富み、演奏した甲斐はあったと思われる。作為を極力排し、スコアにこめられたメッセージを忠実に伝える姿勢に徹した野平の指揮、全力で応えるニッポニカのアンサンブルともども非常に好感が持てた。


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