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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

豪華な声の饗宴で輝くパーヴォのオルフ


NHK交響楽団首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィは2018年9月の定期演奏会3シリーズを振り終えた後、10月1日にNHK音楽祭2018の枠でオルフの傑作「カルミナ・ブラーナ」に挑み離日した。前半は今年没後100年のドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」で始め、これに触発された19歳(1914年)のオルフ若書き「踊る牧神」を日本初演する秀逸な構成。パーヴォらしく辛口のドビュッシーは、酒に例えれば、生ビールの前にキュッと飲み干すキンキンに冷えたシュナップス(ドイツの焼酎)よろしく、オルフの若い才能の輝きを最大限に引き出す効果を上げた。チェレスタやピアノのキラキラした響きが際立ち、後年の野趣あふれる作風と対照をなすのが印象的だった。



後半は「カルミナ・ブラーナ」。実は、ドイツのレーゲンスブルクで1982年に生まれ、同地の高名な大聖堂少年聖歌隊(レーゲンスブルガー・シュパッツェン)のメンバーとして過去2度来日、大人のバリトン歌手としては今回が初来日というベンヤミン・アップル(現在はロンドン本拠なので、ベンジャミンの英語読みを使うことも多い)にインタビューしたので急きょ、出かけた演奏会だった。ソニー・クラシカルと専属契約、オペラから宗教音楽、歌曲(リート)まで幅広いレパートリーの録音を計画しているが、先ずは実際の声を聴いてみなければと思った。バスバリトンではなくハイバリトン、柔らかくリリックな美声である。声量は大きくないのに、いかにも聖歌隊出身らしい澄んだ頭声発声が管弦楽を飛び越え、巨大なNHKホールの隅々まで広がっていく。声色を駆使した演技力もある。若い頃のブラッド・ピットに似た小顔で身長196㎝、全身の半分くらいは脚と思えるモデル体型の持ち主だから、日本でも人気が出るのではないか? 


新国立劇場のドニゼッティ「ランメルモールのルチア」で題名役を歌い、高い評価を得たソプラノのオルガ・ペレチャッコ、バロック歌劇のスターでカウンターテナーのマックス・エマヌエル・ツェンチッチ、新国立劇場合唱団、NHK東京児童合唱団と、アップル以外の声楽パートも充実の極み。N響は篠崎史紀、伊藤亮太郎とダブルコンマス、トランペット首席に菊本和昭、ホルン首席に福川伸陽ら強力な布陣で臨み、最高のパフォーマンスを達成した。パーヴォのタクトは持ち前の切れ味だけでなく、合唱が盛んなバルト3国の中でも群を抜くエストニアの出身だけに、管弦楽と声楽が一体になった響きの饗宴の司祭として、申し分ない力量を示した。

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