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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

諏訪内とインキネン指揮の日本フィル、踊るフィンランドの夜


終演後のインキネン(右)とバストロンボーン奏者で楽団常務理事の中根幹太

日本フィルハーモニー交響楽団第711回東京定期演奏会(2019年6月7日、サントリーホール)は「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念公演」と銘打ち、フィンランド人首席指揮者ピエタリ・インキネンがヨーロッパ公演凱旋定期以来2か月ぶりに登場した。最初は1990年のシベリウス生誕125周年記念にヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団が委嘱、翌年5月にヘルシンキで世界初演された湯浅譲二の「シベリウス讃ーミッドナイト・サン」。世阿弥の言葉「夜半日頭」(真夜中の太陽)と白夜の国の作曲家を結びつけ、湯浅の厳しい筆致で極めた演奏時間7分ほどの佳曲だ。今年90歳の湯浅は杉並公会堂でのリハーサルに2日間立会い、本番初日にも臨席して喝采を浴びた。インキネンは武満徹の「弦楽のためのレクイエム」「夢の縁へ」(ギター協奏曲)もすでに指揮、日本の作曲家への認識を深めつつあり、湯浅からも多くの示唆を受けた様子。響きの純度の高い演奏だった。


2曲目はフィンランドの現役作曲家で指揮者、エサ=ペッカ・サロネンの「ヴァイオリン協奏曲」。2009年、サロネンが音楽監督最後のシーズンのロサンゼルス・フィルハーモニックでリーラ・ジョゼホヴィッツとともに世界初演した。自身の50年間の人生を振り返る4楽章構成。日本のダンサー&コリオグラファーの勅使河原三郎が創作舞踊に転用して以来、諏訪内はダンスとのコラボレーションで30回以上演奏してきたといい、楽曲を完全に手の内に収めている。自身も優れたヴァイオリニストであるインキネンと諏訪内の付き合いは、長い。ぴったりと息のあったコラボレーションが、オーケストラを知り尽くした作曲家サロネンのダンサブルな作品を克明に再現し、同時代の音楽に対する聴衆の「心の壁」を取り払った。近現代の作品を弾く際の諏訪内の快刀乱麻ぶりを存分に楽しんだ客席の拍手は鳴り止まず、アンコールにJ・S・バッハの無伴奏曲の一節が弾かれた。踊るフィンランドの夜!


最後はシベリウスの「組曲《レミンカイネン》ー4つの伝説」全曲。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」に基づく一連の創作のひとつで、1896年に作曲者自身の指揮で初演された。日本では第3曲「トゥオネラの白鳥」だけが演奏され、残り3曲〜「レミンカイネンと島のおとめたち」「トゥオネラのレミンカイネン」「レミンカイネンの帰郷」は滅多に聴く機会がない。インキネンがこれを後半に持ってきた理由は、おそらく2つ。1)先ずは日本とフィンランドの記念演奏会だからこそシベリウスでも演奏機会の少ない作品をあえて選ぶ、2)ヨーロッパ公演で繰り返し「交響曲第2番」を演奏、フィンランドにルーツを持つ創立指揮者の渡邉暁雄の呪縛からついに解き放たれ、若い世代の楽員が新しいシベリウス像を打ち出しつつある日本フィルに対し、よりハードルの高い作品を課すーーといった読み筋だ。弦のマッチョな質感、木管の名人芸の発露、澄んだ金管の音色などツアーで磨きのかかったサウンドに、今夜は洗練と深みが加わり、インキネンの狙いは見事に的中していた。

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