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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

読響楽員のソリスティックな魅力をフルに引き出した原田慶太楼の指揮


ほぼ毎晩、日本語&英語で世界中の音楽家と語り合う動画を自宅から配信

読売日本交響楽団(読響)も定期演奏会を休止したまま、特別演奏会の形で有観客の公演を再開した。2020年7月中に3本4公演、指揮者&クリエイティヴ・パートナーの鈴木優人と特別客演指揮者の小林研一郎と読響にポストを持つ指揮者の間(はざま)に登場したのは米国での活動歴が長く、現在はジョージア州のサヴァンナ・フィルハーモニック音楽&芸術監督を務める1985年生まれの若手、原田慶太楼。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的拡大(パンデミック)に至り、演奏活動が大幅に制限されると直ちに自身のライヴ動画サイト「MUSIC TODAY」を立ち上げ、すでに70回以上にわたってほぼ連日連夜、世界の音楽家との語らいを英語、日本語のバイリンガルで配信してきた。正指揮者に就いた東京交響楽団の無観客公演配信にも3月と6月の2度起用され、コロナ禍の影響で外国人指揮者が来日できず、公演休止から日本人指揮者による変則的な再開に至る過程では鈴木優人、下野竜也、広上淳一、井上道義とともに、最も目覚ましい活動を繰り広げてきた1人だ。


2020年7月14日、「孤独を乗り越え、進め!」と題された読響2回目の特別演奏会で原田が指揮したのはコープランド「市民のためのファンファーレ」「静かな都市」と、ハイドン「交響曲第100番ト長調《軍隊》」の3曲。アンコールに「軍隊」つながりで奏でられたシューベルトの「軍隊行進曲」まで含めて休憩なし、ちょうど1時間のコンサートだった。


コープランドは最初が金管(と打楽器の)合奏、次がトランペット(辻本憲一)、イングリッシュ・ホルン(コール・アングレ=北村貴子)の独奏&弦の実質合奏協奏曲と編成が異なり、転換の間、原田が作曲家の肖像写真を掲げながらトークを行なった。「ファンファーレ」は原田が4シーズン准指揮者(アソシエート・コンダクター)を務めたシンシナティ交響楽団の委嘱作、人の気配がまばらな夜のニューヨークを歩くトランペット奏者の孤独を描く「静かな場所」は「今のパンデミックの世界にも通じる」と選曲の背景を語り、コープランドが読響を客演指揮した記憶も呼び覚ました。ファンファーレの金管アンサンブル、「静かな場所」のソロ2人とも高い技量を示し、日下沙矢子と小森谷巧のダブル・コンサートマスターで臨んだ弦楽合奏も室内楽的な自発性を存分に発揮した。


ハイドンは、とにかく明るく軽快。弦は6−6−5−4−3の小編成ながら1人1人がソリスト級の腕前を発揮して良く鳴る半面、木管楽器のソロもくっきりと浮かび上がらせる優れたバランスだった。ヴァイオリン群を左右に分け、チェロとコントラバスが舞台上手側にくる対向配置。アーティキュレーション、フレージングの様式を十分吟味しながら、大ホールでモダン楽器オーケストラのサウンドを満喫できるだけのデュナーミク、ヴィブラートも考慮して、ハイドンのオーケストレーションの妙や機知を生き生きと再現した。軍楽隊の打楽器を模した箇所にはシンバルの左右を異なるサイズ、材質にして「できるだけ下品でチャチな音」にするなど、原田独自の手が加えられていた。どこかで聴いた記憶のあるアメリカンテイストのご機嫌なハイドンだなあ…と記憶の糸をたどって行き当たったのは、レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニックの1970年録音(旧CBSコロンビア・現ソニーミュージック)。学生時代、LP盤で何度も聴いた名演奏だ。才気とユーモアにあふれ、リズムが躍動する再現という点で原田はバーンスタインにも通じると思った。


「軍隊行進曲」ではクラリネットの金子平、オーボエの蠣崎耕三ら木管首席奏者の鮮やかなソロも味わえた。パンデミックへの恐怖、梅雨の鬱陶しさを一瞬忘れた、秀逸なる一夜。

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