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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

角田鋼亮、読響「三大交響曲」で正統派の力量を全開


2020年8月20日、朝ごはんを食べながらフジテレビの老舗ワイドショウ「とくダネ!」を視ていたら、いきなり前夜、サントリーホールで聴いた角田鋼亮指揮読売日本交響楽団(読響)の演奏会のVTRに遭遇、さらにNHKの全面協力で7月に長野県茅野市のクリーンルームで実施した業界挙げての「クラシック音楽演奏・鑑賞にともなう飛沫感染リスク検証実験」報告書の一部が紹介された。ひと昔前なら読売と産経を背景にした日本テレビ、フジテレビのライヴァル意識も強く、とても読響のコンサートが事務局長やコンサートマスターのコメント映像を交え最速で報道される機会など、なかったはずだ。音楽ファンで知られるメインキャスター、小倉智昭の意向も反映したのか、クラシック音楽事業協会の入山功一会長(AMATI代表取締役)の顔写真入り談話まで流れ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で大幅な活動縮小、減収を余儀なくされた業界の実情を適確に報道していた。


1980年名古屋生まれの角田は昨年6月21日アップの当レビューでも紹介した通り、園田隆一郎(指揮者)や近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)とともに東海学園〝西村スクール〟が生んだ俊才音楽家のフロントランナーだ。


東京藝術大学からベルリン芸術大学へ進み、ドイツ国家演奏家資格(Staatliche Prüfung)課程を修了、2008年のカラヤン生誕100年・第4回ドイツ全音楽大学指揮コンクールで第2位を得た。帰国後はオペラ、コンサートの両分野で活躍、現在はセントラル愛知交響楽団常任指揮者のほか、大阪フィルハーモニー交響楽団と仙台フィルハーモニー管弦楽団の指揮者陣にも加わっている。アウフタクト(予拍)を明確に示し、弾力性に富むリズム感を全身に漲らせてダイナミックに造型する一方、歌心を重視する箇所・楽章ではタクト(指揮棒)を置き、たっぷりと歌わせる。弱音の集中力、和声の浮き上がらせ方なども見事に決まる。優れた音楽性、職人的ともいえる優秀なバトンテクニックを兼ね備え、いつも納得のいく演奏を確かな品格とともに実現する半面、大衆を瞬時に引き込むケレン味には興味を示さない。


どこまでも正統派のアプローチで、角田はシューベルト「交響曲第7番《未完成》」とベートーヴェン「同第5番《運命》」、ドヴォルザーク「同第9番《新世界から》」の「三大交響曲」と向き合った。読響の夏休み明け恒例の企画だが、かつては日程消化的な指揮者の人選やオーケストラ自体のテンションにより、ルーティン演奏の典型に堕す場合が多かった。だが昨夜、オーケストラも不自由なソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の設定)を維持したまま12型(第1ヴァイオリン12人)と7月の公演再開後では最大のサイズまで拡大、全力投球の姿勢が見た目にも顕著だった。管楽器奏者は依然2mの間隔を置いた配置なので、木管首席たちのソリスト級名人芸は〝密〟の平時よりも際立つ半面、金管のユニゾン(斉奏)のアタマはどうしてもバラけてしまう。しばらくは、これに慣れるしかない。


《未完成》第2楽章コーダ(終結部)の幽玄とすらいえる弱音のロングトーン、《運命》は第1楽章の繰り返しカットがかなり大胆、いきなり再現部へ飛んだのにはビックリしたが、角田は早めのテンポでエネルギーをフルに引き出した。第3楽章から第4楽章にかけては「交響曲第7番」も顔負けのリズムの祭典を繰り広げ、トータル30分を切る疾走ぶり。《新世界から》では第2楽章、「家路」の旋律の次に現れる主題で先行する木管に弦が絡む瞬間の繊細な感覚、第3楽章の1つめのトリオにおける民族的リズムの刻みなどに、鋭いスコアの読みを垣間見せた一方、第4楽章は再び若々しい全力疾走で爽やかに駆け抜けた。

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