クラシックディスク・今月の3点(2024年9月)
ラモー「歌劇《レ・ボレアード》」全曲
ジェルジ・ヴァシェジ指揮オルフェオ管弦楽団・パーセル合唱団
サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
レイナウト・ファン・メヘレン(テノール)
ベネディクト・クリスティアンソン(テノール)
フィリップ・エステフ(バリトン)
トマ・ドリエ(バリトン)
タシス・クリストヤニス(バリトン)
グヴェンドリーヌ・ブロンデール(ソプラノ)
フランス・バロックの大家ジャン=ーフィリップ・ラモー(1683ー1764)が80歳を超えて完成しながら、その死によって葬られ、没後200年の1964年に蘇った音楽上の集大成。東京の北とぴあ国際音楽祭2023、寺神戸亮指揮の全曲上演が話題を呼んだのも記憶に新しい。何より老大家とは思えないエネルギーの充実と時代を超えた発想の豊かさに、ただただ圧倒される。仏「Erato」レーベルの新録音はハンガリー出身のピリオド楽器演奏スペシャリスト、ヴァシェジがヴェルサイユ・バロック音楽センターと共同で進めてきた10年越しの「野心的」なラモー・プロジェクトの最終編に当たるという。18世紀音楽に通暁したキャストを集め、器楽合奏も合唱も高水準、何よりも推進力に富む指揮が素晴らしい。2023年9月18〜21日、ブダペストのベーラ・バルトーク国立コンサートホールでセッション録音。
(ワーナー ミュージック)
藤田真央「72 Preludes」
藤田真央(ピアノ)
ショパン:24の前奏曲 Op.28
スクリャービン:24の前奏曲 Op.11
矢代秋雄:24の前奏曲(世界初録音)
「24の前奏曲」3種類なので「72」のタイトル。ベルリンのスタジオb-sharpで2023年12月と2024年4月、3度のセッションを組んで収録した2枚組のアルバムはソニーでのデビュー作、モーツァルト「ピアノ・ソナタ全集」以上の説得力で、藤田真央という唯一無二の才能というか「現象」の真価を明らかにする。聴き慣れたはずのショパンのまろやかで味わいに富む演奏を聴いて、まだ20代のピアニストだと理解できる人が何人いるだろう。スクリャービンは一転、若々しく新鮮なアプローチ。46歳で急逝した矢代(1929ー1976)がパリ留学前、15歳で作曲した前奏曲集は草稿の自筆譜に基づき、矢代若葉夫人らの尽力で2022年にようやく出版(音楽之友社)された秘曲なので、演奏の巧拙を論じられるだけの〝材料〟に不足する。矢代は厳しい自己批判で知られ世に出した作品数も限られるため、若葉さんは「もし主人が生きていたら『出すな!』と激怒したかもしれません」と語るが、若い芽が次々に開いていくような魅力に溢れた佳曲には違いない。藤田の演奏も美しい。
(ソニーミュージック)
J・S・バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全6曲
山根一仁(ヴァイオリン)
山根がコロナ渦中の2021年、東京オペラシティ文化財団主催の「B→C」に出演、バッハの「無伴奏パルティータ第2番」を鮮やかに弾き切った際の当HPレビューを先ず再掲する;
1995年札幌生まれだから、まだ「若手」の年齢だが、中学生の15歳で日本音楽コンクールに優勝して以来一線の活動を続け、演奏水準を一貫して切り上げてきた。2024年5月15〜17日、宮城県中新田のバッハ・ホールでセッション録音した「バッハ無伴奏」の全曲盤は「20代の総決算」などという安直な形容を寄せ付けず、世界的に第1級の名手の実力をはっきりと証明する。過去数十年のバッハをめぐる様式感の変遷を踏まえ、自身の奏法と感性の間に理想的なブリッジをかけ、高いテンションに貫かれた演奏には感心するしかない。
(キングレコード)
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