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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

菊地裕介と髙木竜馬の4手「春の祭典」


若き「秀才」と円熟の「鬼才」、なかなか上手いキャッチコピーだ!

ピアニストの菊地裕介が自分より若い世代の音楽家を継続的に紹介していく「presents」シリーズのvol.2は、髙木竜馬。2019年2月8日、浜離宮朝日ホールの舞台にはハンブルク・スタインウェー1台のみが置かれ、共演パートが2台ピアノではなく、1台ピアノの4手連弾だと知る。2人の芸風、ピアノ奏法はかなり異なるので、興味をかき立てられた。


まず連弾で、シューベルトの「幻想曲へ短調」。菊地がソプラノ、髙木がバスのパートだ。私が押しかけプロデュースをしてきた連弾ユニット「ザ・ロンターノ」(伊藤憲孝と髙橋望)の看板曲でほぼ2年に1度きっかり提供し続けてきたため、どうしても聴く耳が厳しくなってしまう。短時間の練習では楽譜の「縦の線」をきっちり合わせるのがやっとだろうから案の定、シューベルトの屈折錯綜した心理の綾を直視しながらの「ゆらぎ」「ずれ」などを再現するまでには至らず、音大の期末試験を聴くような味気なさを感じた。半面、このドライな感じは、後半の「春の祭典」でプラスの働くのではないかとの予感も。


次は髙木のソロ。昨年末にムジカーザのリサイタルに前半だけいて聴き損ねた後半の大作、ムソルグスキーの「組曲《展覧会の絵》」をここで取り戻せたのは幸いだった。ウィーンで勉学の途上だけに、まだ正確を期すあまり「縦」方向の打ち込みに支配され、本来のおおらかな歌心がごく控えめになってしまう傾向はあるものの、何よりピアノ豪快に鳴らしきり、ピアニッシモにも芯がしっかり通っている打鍵の素晴らしさをここでは賞賛すべきだろう。それぞれの部分のキャラクターの描き分けなどは、今後の精進に委ねたい。


後半は先ず菊地のソロで、ショパンの「バラード第1番」。音のソノリティは髙木より薄めだが、何よりバラードの肝(きも)である「語り」に一日の長があり、フランス留学で身につけたであろう小洒落たリズム処理、ルバート(瞬間のテンポ変更)の巧さで光った。最後はいよいよ、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」の1台ピアノ4手連弾版。シューベルトの逆で菊地がバス、髙木がソプラノのパートを担ったのは懸命な選択だった。菊地が持ち前のバネのようなリズム感で低音を刻み、髙木の美しい音色が踊りの色彩感を鮮やかに再現し…と、最良の組み合わせ。気合いもバッチリで、素晴らしい成果を上げた。見事な幕切れに思わず「ブラヴィー!」と叫ぶと、他のお客様は「ブラヴォー!」だった。男性単数はbravo、男性複数はbravi、女性単数はbrava、女性複数はbrave、男女混合複数はbraviとイタリア語に忠実でいくか?、英語に転じて性別なしの単複同形になったbravoを採用するか?、オペラではなく器楽の場合、ただの「ブラヴォー!」でいいのかもしれない。

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