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自由が丘の建築事務所ACTサロンで聴く「強制収容所に消えた天才作曲家」

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

建築事務所が演奏会場

建築家の小林洋子、林秀樹が営む建築事務所ACTは音楽サロン「entract」を併設、実力派演奏家による妥協のない曲目の演奏会を続けてきた。2017年からは「自由が丘クラシック音楽祭」を毎年11月に開催している。今年のテーマは「頽廃音楽(Die Entartetemusik)」。2019年11月2&3日の2日間、初日は「強制収容所に消えた天才作曲家」をテーマに3公演、2日目は「ヒンデミット」2公演と「ブレヒト・ソングとその周辺」「コルンゴルトとアメリカ世界」の計4公演を各1時間で続け、両日とも最後に演奏者、聴衆の交流するパーティーがしつらえてある。


小林の話では「第二次世界大戦の契機となったドイツ軍のポーランドから80年の節目をとらえた企画」という。私は終戦50周年の1995年、1)英デッカが「頽廃音楽シリーズ」のCDを連続リリース(意欲的企画がまだ、成立する時代だった)、2)NHKがテレジエンシュタット(現在のチェコのテレジン)強制収容所に消えたユダヤ系チェコ人作曲家ギデオン・クラインにまつわるドキュメンタリーを制作、3)東京ドイツ文化センターがシュトゥットガルト音楽大学元学長でリート(歌曲)ピアニストとして名高いコンラート・リヒターを招き、同じくナチスのユダヤ人ホロコースト(大量殺戮)の犠牲となったヴィクトール・ウルマン作曲の「ピアノ・ソナタ」のレクチャーコンサートを企画…と再評価の機運が盛り上がった時機をとらえ、「日本経済新聞」土曜文化面に特集記事を書いた。当時チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者だったゲルト・アルブレヒトは「頽廃音楽」の烙印を押され、収容所に消えた作曲家たちの管弦楽曲を「オルフェオ」レーベルに録音、チェコ・フィル来日時に行なったインタビューを「マリ・クレール」誌に寄稿したこともあった。


スケジュールの都合でバリトンの小藤洋平、ピアノの井出徳彦(怪我でキャンセルした内藤晃の代役、好演!)によるウルマンの歌曲(シュレーカーとの組み合わせ)、志村泉のピアノ独奏によるクラインとウルマンのソナタ(フィビヒの珠玉の小品集との組み合わせ)という「強制収容所に消えた天才作曲家」のⅠ、Ⅱだけを聴いたが、ともに素晴らしく高水準の演奏で、聴き惚れた。小藤の美しいドイツ語のディクションと井出の柔軟なコレスポンデンスは聴き慣れない作品と聴き手の距離を確実に縮めたし、志村の長年の研究と深い共感に支えられ、技術的にも非の打ちどころのない演奏はクライン、ウルマンに新たな命を与えた。少人数で聴く臨場感が、こうした珍しい作品の理解を助ける効用も、身を以て体験できた。



2 comentarios


池田卓夫 Takuo Ikeda
池田卓夫 Takuo Ikeda
02 nov 2019

本当に。

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柴崎  信三
柴崎 信三
02 nov 2019

興味深い企画ですね。


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