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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

自分探しに疲れた女とゲス男たちの「エーデルワイス」、劇団「ブス会」快進撃


ペヤンヌマキは「仕事に夢中で恋愛下手、気がつけば40歳を過ぎても独身という女たちの苛立ち、焦り、願望…と複雑に絡み合う思いをそのまま、舞台にぶちまける」タイプの脚本・演出家だ。元はAV映画の監督だった。2010年に特定の団員を持たず、プロダクションごとに新鮮なキャスティングを施す劇団「ブス会」を立ち上げた。私は2017年に先ずリーディング劇、次いで主演の安藤玉恵とペヤンヌマキの「生誕40周年記念」で舞台化した「男女逆転版・痴人の愛」で、台東区芸術文化支援制度の補助金を支給する側のアートアドバイザーの1人として、彼女と知り合った。谷崎潤一郎の原作の男女を入れ替えて「ナオミ」を美少年、「私」を40歳独身の美術史家の女性に設定したアイデアの秀逸さに魅せられ、ドラマに寄り添う無伴奏チェロの選曲に多少のアドバイスを与えた記憶がある。


そして今回の第7回公演。テレビでも人気のある40代半ばの中堅女優、鈴木砂羽を迎えた「エーデルワイス」を2019年2月27日〜3月10日、東京芸術劇場シアターイーストで上演している。私は3月6日夜の上演をみた。エーデルワイスはキク科の「セイヨウユキノソウ」の洋名で、「純潔」「大切な思い出」「勇気」を花言葉とし、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の中の名曲の題名にも使われた。劇中でも、昔の恋人からもらったオルゴールが、その旋律を意味深長に奏でる。


主人公は自虐的なコミック「たたかえ!いばら姫」で人気を博した漫画家、アキナ43歳。18歳で東京へ飛び出した少女時代はミユキといい、若手の藤井千帆が演じる。現在の鈴木、過去の藤井は子どもの頃からお気に入りの色、エメラルドグリーンの衣装でつながり、舞台は時間を往来しながら進行する。最初の恋人マサヤは生活力のない小説家志望、現在の「若いツバメ」のコウキは売れない役者で、イケメン俳優の大和孔太を起用。それぞれ自己中のダメ男を巧みに演じ分けた。マサヤはミユキと別れた後、40代になって結婚して子どもばかりか、芥川賞までも授かるが、アキナはスランプでコウキの女性関係にイライラ、酒浸りの日々だ。遂には妄想にかられ、自滅寸前まで落ちていく。鈴木の怪演は見ものだ。


2人のイケメンの間には水澤紳吾、土佐和成、後藤剛範、金子清文が2〜3役を担い、過去のダメンズ(ダメ男集団)を個性豊かに演じる。さらに喫茶店でバイトしていた時からの友人セイ子と現在の編集担当者の竹山の2役で3人目の女優、高野ゆらこが加わる。アキナが過去を振り返るのが基本の設定で、舞台はエピソードからエピソードへ、映画のシークエンスのようにスピーディーな展開をみせる。自分がボロボロになってしまったのを「魔女の呪い」とまで思い込んでいたヒロインが最後、「無駄な経験は一つもなかった」と気づき、過去の「私」を素直に抱きしめられるようになり、芥川賞作家マサヤとの対談を快諾するまでの120分。休憩なしで、ぐいぐい客席を引っ張る。自分探しに疲弊した中年女性のリアルを冷酷なまでに炙り出し、男たちの「その場しのぎ」の愛情とプライドのダメさ加減を容赦なく切り捨てる。身につまされる観客は多いはずだが、ペヤンヌマキのもう一つの持ち味であるユーモアが必要以上の深刻さを回避している。だが、客席の無邪気な笑い声を最も冷静に見つめているのがペヤンヌマキだったとしたら、これはホラー並みにコワイ芝居である。

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