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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

美声と確かな様式感、キャストに隙ない新国立劇場「セビリアの理髪師」再演


ヨーロッパでも滅多にない粒揃いのキャスト

新国立劇場オペラが1997年の開場以来、「セビリアの理髪師」(ロッシーニ)を上演するのは8度目。トーマス・ノヴォラツスキー芸術監督時代の2005年に初演したヨーゼフ・E・ケップリンガー演出のプロダクションとしては4年ぶり4度目の再演となるが、今回のキャスト、指揮が最も素晴らしかった。キャストは画像に掲げた通り。イタリアを中心にロッシーニ・メゾの新星として引っ張りだこの脇園彩にようやく、東京のナショナルシアターで実力にふさわしい舞台が用意され、本領を存分に発揮した。もう1人、日本デビューに当たったフランス人バリトンのフローリアン・センペイによる題名役(フィガロ)は美声と輝き、溌剌とした存在感で文句なし。


アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団の「メフィストーフェレ」(ボーイト)演奏会形式上演で題名役を歌ったマルコ・スポッティのドン・バジリオ、パオロ・ボルドーニャのバルトロのイタリア人低声コンビ、アルマヴィーヴァ伯爵の米国人テノールのルネ・バルベラらゲスト歌手の粒はそろっていた。さらに長く与田朝子が歌ってきたベルタが加納悦子に替わり、また異なる〝苦味〟を放つのが素晴らしい。アントネッロ・アッレマンディも日本国内の上演団体に客演した際の強引&無表情な指揮とは別人と思えるほど、それぞれの歌手の持ち味を引き出し盛り立てながら、すっきり整った最新のロッシーニ解釈を東京交響楽団(コンサートマスター=水谷晃)とともに現出させた。


今は亡きアルベルト・ゼッダやクラウディオ・アバドらの尽力により作曲家の生地ペーザロを拠点とした1970年代以降のロッシーニ・ルネッサンスがいよいよ実を結び、歌唱法は目覚しく改善した。自然な発声で力まずテキスト(歌詞)を語りかければ、一時は演奏至難とされたアジリタ(装飾音型)を無理なくこなせ、共演者たちと競うのではなく穏やかに声を重ねる形で、コンチェルタート(1つの旋律を共有して交互に歌う楽句)も実に楽しく、音楽的に響く。スター級をそろえながらアンサンブルの緊密さで聴かせ、楽しませた点でも出色の舞台だった。さらに2月8、11、14、16日の4公演がすべて14時開演で控えている。

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