全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)主催「第46回ピティナ・ピアノコンペティション」特級ファイナルを2022年8月17日、サントリーホールで聴いた。
67人から4人へと絞り込まれたファイナリストは演奏順に:
1)森永冬香(東京藝術大学音楽学部3年)チャイコフスキー第1番→銅賞
2)神宮司悠翔(東京藝大附属高校2年)同上→銀賞
3)北村明日人(東京藝大大学院修士課程)ベートーヴェン第4番→金賞・聴衆賞
4)鶴原壮一郎(東京藝大音楽学部2年)ラヴェル(両手)→第4位
※偶然だが、全員が東京藝大系
管弦楽は飯森範親指揮東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(コンサートマスター=戸澤哲夫)
※今年はピアニストに即してテンポ、フレーズなどをきちんと振り分けられる指揮者を起用
審査員(50音順)は赤松林太郎、今峰由香、鬼久保美帆、金子勝子(審査員長)、迫昭嘉、田崎悦子、萩原麻未、Guigla Katsarava、Ralf Nattkemper
※審査員デビューだった萩原麻未をはじめ、レッスンプロではなく現役演奏家主導の審査
特級ファイナルを会場で聴くのは2年ぶりだった。コロナ禍を通じ、音楽界および音楽家が足元を見つめ、表向きの何かより自身の個性の内実に目を向けてきた成果が如実に現れた。
北村は出だし数小節の憧れ(Sehnsucht)に満ちた繊細な音だけで、オーケストラと聴衆を固有の表現世界に引き入れた。内省的解釈。粒のそろった真珠のように美しいタッチは一貫して弱音から発想され、輝かしいフォルテは「最後の一撃」しか現れない。指揮者だけでなく、ソロを奏でる管楽器奏者たちとの室内楽的コラボレーションにも抜かりはなかった。
チャイコフスキーの同じ協奏曲で競った前半の2人は対照的だった。森永は美しい音色、粒ぞろいのタッチ、オーケストラとのコレスポンデンスのすべてを優等生的にクリアしていた半面、ヴィルトゥオーゾ協奏曲を弾くには音の厚み(ソノリティー)が足りず、表現の振幅がつねに一定のレンジ内に収まっていたのが残念だった。最年少の神宮司は音に厚みと弾力があり表現もダイナミック、フレージングやルバートにも個性が光る。指揮者とオーケストラは同曲2人目で解放されたのか鳴りを増して、逆にソリストを挑発するほどの積極性をみせた。ソリストは「乗せられ」過ぎたのか最後は少しバテ気味、惜しいミスも出たが、幸い、今回の審査チームは減点法ではなかったようで、将来性を買われる結果が待っていた。
鶴原は師の江口玲の影響か、スタインウェイをメタリックな輝きとともに鳴らす打鍵、音色が美点。しかし、ひたすら鍵盤だけを見つめ、指揮者&オーケストラばかりか聴衆とのコミュニケーションにも心を閉ざしたかのような感触が、協奏曲の演奏としては異質だった。
午後4時半開演。演奏は7時半前に終わり、結果発表と表彰式が8時過ぎから約30分続いた。本番もセレモニーも、すべてがネットで配信されていたのだから、主催者側や来賓の形式的な挨拶だけでなく、審査員講評や入賞者本人のコメントも聞いてみたかった気もする。
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