愛知室内オーケストラ(ACO)第30回定期演奏会「ブラームス・ツィクルス」第3回(2022年3月19日、三井住友海上しらかわホール)
指揮=原田慶太楼、ヴァイオリン=竹澤恭子※、コンサートマスター=塩貝みつる
ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」※
ソリスト・アンコール:J・S・バッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」より第1楽章「グラーヴェ」
ブラームス「交響曲第1番」
アンコール:シルヴェストロフ「無伴奏合唱曲《ウクライナへの祈り》」の管弦楽版(エドゥアルト・レザッチュ編曲)日本初演
3回で交響曲全4曲と「ピアノ協奏曲第2番」(独奏=清水和音)、「ヴァイオリン協奏曲」をカバーするツィクルスの最終回。
先輩ベートーヴェンを畏怖するあまり作曲に21年を費やしたとはいえ、「交響曲第1番」初演時のブラームスは43歳、まだ力みなぎる年齢だった。「ヴァイオリン協奏曲」も2年後、45歳の作品だ。ツィクルス前2回でACOの力量を見極めながら慎重にブラームスを究めてきた原田は最終回に至って「若い指揮者」のエネルギーを解き放ち、実験精神と覇気に満ちた作曲家像を躊躇なく提示した。愛知県出身の竹澤だが、ACOとも原田とも初共演。コロナ禍以降に限っても熊倉優指揮新日本フィル、秋山和慶指揮大阪フィルなどと頻繁にブラームスを共演、誰からみても十八番のレパートリーだ。しかしながら今回の演奏には特別な気配が漂った。ところどころの破綻を恐れずに全身全霊、「今、ここに生きている人々とともに最上の音楽を奏でる」との意思の強烈さがどこから来たのかは、アンコールのバッハで明らかになった。ウクライナをはじめとする世界の苦境に竹澤が心を痛め、音楽をする意味を自ら問い続けてきた軌跡が、「逸脱」には現れていた。
原田が造形する管弦楽は、竹澤の迫力と音圧に巻き込まれた側面があったとはいえ、テンションは明らかに過剰ゾーンに振り切れ、ブラームスが「ヴァイオリン協奏曲」の管弦楽に託した世界の一端に偏ったのが残念だった。自分はそれが不満ではなく、安心の思いとともに聴いた。コロナ禍中の代役需要もあり一躍、日本を代表する人気指揮者の1人となって、素晴らしい結果を出し続けてきたとはいえ、実態はまだ「若手」に違いない。トライ&エラーのムラがあって当然なのに、なかなかボロを出さない(笑)。今回、竹澤とのブラームスでみせた力み過剰でようやく、慶太楼の若さを確認した次第。なんか、ホッとした。
後半の交響曲ではさすがに、思慮深さもを兼ね備えていた。おおむねキビキビした運びだったけれども、第1楽章はリピートを実行、第4楽章終結部(コーダ)手前のコラール風旋律で悠然とテンポを落とすなど、かなり芸の細かさもみせた。第2楽章の塩貝のソロも秀逸。ツィクルスの締めくくりにふさわしい熱演だった。客席からは目下「禁じ手」のBravoも。
ウクライナの作曲家、ヴァレンティン・シルヴェストロフ(1937ー)が2014年に作曲した無伴奏(アカペラ)合唱曲《ウクライナへの祈り》をロシアの侵攻後、同郷の独バンベルク交響楽団チェロ奏者エドゥアルト・レザッチュが編曲、首席指揮者のチェコ人ヤコブ・フルシャが初演したばかりの管弦楽版は、今回のアンコールが日本初演に当たる。先ほどまでのマッチョな熱気が嘘のように、ひたすら祈りに沈潜する慶太楼。やはり侮れない指揮者だ。
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