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  • 池田卓夫 Takuo Ikeda

福間洸太朗新譜、NAXOS世界同時発売

最終更新: 2019年5月4日


世界最大のクラシック音楽ディストリビューター(自社&他社音源ソフトの総発売元とネット配信、検索ライブラリーの総合シェア)、NAXOSが日本で録音した音源を初めて、世界同時にリリースする。ベルリンと東京を本拠に世界で活躍するピアニスト、福間洸太朗の新譜「France Romance」で、2019年4月中旬にディスク発売&配信開始を予定している。


福間は日本コロムビア(DENON)など数社で積極的な録音活動を展開してきたが、デビュー盤は2004年にカナダのトロントで、NAXOSが制作した「シューマン作品集」だった。前年に日本人として初めて、米国のクリーヴランド国際ピアノコンクール(前身はロベール・カザドシュ国際コンクール)で優勝した際の副賞。20歳そこそこの若い日本人とは思えない思い切りの良さ、作品を手中に収めた解釈、和声感をはじめとするインターナショナルな雰囲気に私は感心、将来の大成を確信して新聞の新譜欄で紹介した。だが2006年に武満徹の没後10年を記念したピアノ作品集を制作して以降、他レーベルでの録音が続いていた。



©︎T.Shimmura

12年ぶりのNAXOS復帰セッションは2018年11月28〜30日、新潟県柏崎市文化会館アルフォーレを会場にナクソス・ジャパンの主導で実現した。クリスティアン・ツィメルマンがドイツ・グラモフォンで25年ぶりのソロアルバム、シューベルト最後のピアノ・ソナタ2曲(第20&21番)の録音会場に選び、注目を集めた新しいホールだ。仲道郁代の話では「お菓子のブルボンがスポンサーなので、チョコレートを思わせる内装がかわいい」という。福間は備え付けのスタインウェーではなく、フランス音楽の録音ではかなりマニアックなドイツの楽器ベヒシュタインD-280を持ち込んだ。ディレクター&レコーディング・エンジニアはソニー・ミュージックを退職後起業したアールアンフィニの武藤敏樹、アシスタント・エンジニアがコジマ録音の小島幸雄と、インディーズ系2レーベルの社長が異例のタグを組み、24bit/352.8kHzのDXDマスターに収めた。


収録楽曲は;

ドビュッシー「夢」「レントより遅く」

フォーレ「8つの小品集作品84より第5番《即興曲》、第8番《ノクターン》」

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ラ・ヴァルス(福間洸太朗編)」

サティ「ジムノペディ第1番」「ジュ・トゥ・ヴ(福間洸太朗編)」

プーランク「即興曲第15番《エディット・ピアフ》を讃えて」「3つのノヴェレッテ」

ワイセンベルク「シャルル・トレネによる6つのシャンソンの編曲」

ルノワール「聞かせてよ、愛の言葉を(福間洸太朗編)」


まず福間自身の編曲について。「ラ・ヴァルス」はフィギュアスケートとのコラボレーションを趣味と実益を兼ねて続けるなか、世界選手権を2度制覇したステファン・ランビエル選手の知遇を得た際に編曲した。「ジュ・トゥ・ヴ」は2013年、パリでのリサイタルの「アンコール用サプライズ」に用意した。シャンソンの「聞かせてよ、愛の言葉は」は戦争中、武満徹少年を音楽の世界へと誘った記念碑的名曲。NAXOS復帰への橋架けの意味もある。


「ワイセンベルクって、あの?」と多くの人が思う通り、「帝王」と呼ばれた指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが好んで起用したピアニストのアレクシス・ワイセンベルク(1929〜2012)である。ブルガリア出身だが、パリでの生活が長く、フランスのテレビ局が制作した音楽番組のパーソナリティーを務め、自らアレンジしたシャンソンの名曲を披露する場面もあった。作曲も手がけ、福間は「庄司紗矢香さんの演奏による《ヴァイオリンとピアノのためのロマンス》という作品をナントで聴いたこともある」そうだ。トレネ(1913〜2001)はフランスのシャンソンのシンガーソングライターで俳優。福間は「ワイセンベルクが編曲したシャンソン」の楽譜を探す過程で福岡出身のピアニストで楽譜研究家の江崎昭汰(ミューズ・プレス代表)と知り合って譜面化を依頼、2016年に初演した。


1982年に東京で生まれた福間は都立高校を卒業すると同時にヨーロッパへ渡り、パリ音楽院やベルリン芸術大学で学びながら世界規模のコンサート活動を開始、南米やスペインにまで足を伸ばしてきた。今年で日本デビュー15年。「35歳から50歳までが中堅ピアニストとして、本場ヨーロッパで生き残れるかどうかの勝負。ベートーヴェン生誕250年の2020年に向けてソナタの演奏機会を次第に増やす一方、スクリャービンなどの新しいレパートリーを開拓していきたい」と語る。節目のアルバムにフランス音楽を選んだのは「留学して最初の4年間を勉強に費やし、今も定期的に演奏している国の音楽を自分なりの解釈で弾き、フランス人がどう反応するのかにも興味があったから」。ピアニストの多くが録音を終えた途端に次の地平を目指し、厳しく自己批判をする傾向に漏れず、福間も「フランス流リリシズムの官能性を自分なりに研究して弾いたが、どこまで迫れたかは、みなさんの耳で判断してください」と、照れ臭そうに打ち明ける。私の感想? 「ベヒシュタインの音色には、独自の味わいがある。非常に高い美意識に貫かれているのに温かさを失わず、誰が聴いても心洗われる演奏」くらいに、とどめておこう。


発売を記念して2019年4月18日(18時開場、18時30分開演)には、ナクソス・ジャパンが東京・銀座の山野楽器本店7階イベントスペースで、「ピアニスト福間洸太朗ミニ・コンサート&サイン会」を行う。福間は新譜から3曲ほどを演奏、それぞれの合間に私とのトークがはさまる。(入場無料)


ランチを一緒にとりながら、福間に今後の夢を訊いてみた。


「世界のあちこちで、マスターコースを始めました。言葉だけで伝わらなければ実際に弾いて示し、自身の考えを整理するのにも役立ちます。お客様の底辺を広げ、一緒に高いレベルを目指すには、解釈をどんどん深めていく必要を痛感。同世代で育児や介護のために演奏会へ来られない方々への発信も考えて、自分で弾きながら楽曲を分析・解説する動画をYoutubeで次々、アップしています。最終的には音楽を中心に、世界のあらゆる芸術に目を向けるアカデミーのようなものを開くのが夢です」


外国生まれでも帰国子女でもなく、才能と努力の積み重ねでコスモポリタンな芸術家の道を切り開く福間洸太朗。見かけは好青年風ながら、芯には武士のようなストイシズムがある。






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