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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

田野聖子✖️田村麻子「シェイクスピア〜哀しみの女たち」、オペラ入門の新機軸


先月の福山(広島県)では日本の詩人たちがソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の設定)の〝お手伝い〟をしたが、今夜はシェイクスピア様のお出ましだった。2020年10月7日、浜離宮朝日ホールではシェイクスピア原作の3つのオペラーーヴェルディの「オテロ」「マクベス」とトマの「アムレット」それぞれのヒロインを女優の田野聖子が日本語(西ヶ廣渉訳)で演じ、ソプラノ歌手の田村麻子が原語(ヴェルディがイタリア語、トマがフランス語)で歌った。髙岸未朝がデスデモーナは白、レディ・マクベスは赤、オフィーリアは薄緑の衣装とウィッグをそろえて同一人物性を強調、必要最小限の道具と照明で物語の違いも押さえた構成・演出で健闘。江澤隆行はアリアの伴奏だけでなく、芝居の付随音楽もオペラの各オペラのエッセンスを散りばめながら奏で、アンコール前のMCも担当するなど、今回は「歌のピアニスト」の本領を存分に発揮した。通り一遍のアリアの夕べ、オペラのハイライトとは完全に一線を画し、時間をかけてつくり込んだ新機軸で、ほんの1場面を切り取って構成しただけなのに、濃密な短編映画の3本立てを観たような手応えがあり、制作チームの志の高さを感じた。


楽曲は「オテロ」の「柳の歌〜アヴェ・マリア(祈り)」、「マクベス」の「狂乱の場(ここにまだ、染みがある)」、「アムレット(ハムレットのフランス語)」の「狂乱の場(私も仲間に入れてください)」の3曲。さらにアンコール、グノーの「ロミオとジュリエット」からジュリエットのアリア「私は夢に生きたい」(フランス語)でも衣装をピンクに変え、田野の芝居と田村の歌をつないだ。15分の休憩を含め1時間45分のステージだった。


田野は声色や音量を巧みに替えながら、(アンコールも含めて)4人のヒロインを適確に描き分け、確かな存在感を発揮する。オフィーリアでは「狂乱の場」の一節も歌った。田村の声は過去何度か聴いた記憶に照らしてもコンディションが良く、クリスタルに輝くコロラトゥーラのテクニックを駆使して、迫力に富む「歌の演技力」を満喫させた。デスデモーナとオフィーリア、ジュリエットは本来のレパートリーなので心配無用でもあったが、超ドラマティックソプラノが得意とするレディ・マクベスでも無理に〝ドス〟をきかせることなく、田村本来の声質で見事な解釈を示したのは、芸術的に大きな収穫といえた。前日の新国立劇場「夏の夜の夢」(ブリテン)と2日続きで、シェイクスピア原作のオペラの世界を体験できたのは幸せだった。


オペラ入門イベントの設定手法は千差万別ながら、原作がしっかりしている場合、いったん音楽から演劇の部分を取り出して日本語で意味を伝えた後、原語で音楽を聴かせる手法もなかなか有効であると、今回のチャレンジは確信させた。継続を強く希望しつつ、「次回はコメディーもいいな」と思った。出演者はもちろん、制作スタッフ全員にBravi❣️

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