NHK交響楽団第1913回定期演奏会、Cシリーズは首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの父ネーメが3年ぶりに客演。2019年5月18日の2日目をNHKホールで聴いた。 シベリウスの弦楽合奏曲「アンダンテ・フェスティーヴォ」とブラームスの「交響曲第4番」という名曲の間には、N響が初めて採り上げるエストニアの作曲家トゥビンの「交響曲第5番」(1946)が置かれた。
20年ほど前、スウェーデンのイェーテボリ交響楽団と来日したネーメに最初のインタビュー機会を得たとき「1991年に旧ソ連が崩壊するまで私はロシアの指揮者と言われ続け、ソ連のオーケストラの外国ツアーでも一貫して二番手の扱いを受けてきた。エストニアが独立を回復した今、晴れてエストニア人の指揮者として、自国の作曲家の紹介に力を尽くせる」といい、何人かの名を挙げた中に、亡命先のスウェーデンで生涯を終えたトゥビンも入っていた。
シベリウスでネーメがN響から引き出したクールで美しく、透明度の高い弦の音色はパーヴォにも通じ、「ヤルヴィ家秘伝のレシピ」を思わせた。トゥビンでも、この弦の響きを基調に管の名人芸を際立たせ、2台のティンパニをはじめとする打楽器が鋭いアクセントを与える。非常に洗練された作曲技法ながら、親しみやすさを備え、北欧のエステティックスをシベリウスと共有する。ネーメの見通しの良い指揮は、トゥビンの伝導者としてのミッションを十二分に果たし、N響の献身にも感謝の気持ちを全身で表していた。
淡麗辛口、クールなサウンドで無駄口をたたかないネーメの職人芸が果たして、ブラームス最後の交響曲の深い内面世界に適しているのか、聴く前は想像がつかなかった。速めのテンポでハードボイルドなアプローチの基本は変わらないが、時に大きな身振りが現れ、情感を盛り上げる驚くべき即興、濃い表情の強調もいとわない。長いキャリアを通じ、ひたすら音楽に尽くしてきたマエストロの到達した自然体の境地から実に味わい深いブラームスが生まれた。至芸と讃えるべきだろう。
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