サントリーホールと地元の港区(区役所と教育委員会、スポーツふれあい文化健康財団)が手を組んで指揮者の大野和士をブレーンに巻き込み、年1回行ってきた小学校4年生対象の「Enjoy! Music プロジェクト」を2019年2月22日午前11時から聴いた(観た)。2015年の初回はフランス国立リヨン国立歌劇場管弦楽団との「音楽と身体表現」だったが、2年目から大野が音楽監督を務める東京都交響楽団(都響)に変わり、2016年と17年には「音楽と絵画」、昨年と今年は「声のひびきを楽しもう」をテーマに掲げてきた。
前年12月〜当年2月の3ヶ月間、サントリーホールのオペラ・アカデミーに所属する若手歌手が港区内の小学校で事前授業を行い、ベートーヴェンの「交響曲第9番《合唱付》」の「歓喜の歌」の一部をドイツ語で歌うための指導を続けてきた。本番は「魔笛」(モーツァルト)の鳥刺しパパゲーノ(吉川健一)のアリアで始まり、開演前の黄色い声の百花繚乱?が一気に静まる。続く夜の女王(安井陽子)2つめの超絶技巧アリアでは、子どもたちがコロラトゥーラの魔法に息をのむ。パパゲーナ(九嶋香奈枝)とパパゲーノの二重唱で2人が軽くキスすると、ざわめきが起きた。
続いて新国立劇場合唱団とオペラ・アカデミー有志の混声合唱団が加わり、「メサイア」(ヘンデル)の「ハレルヤ」、「アイーダ」(ヴェルディ)の「凱旋行進曲」(抜粋)を鑑賞してもらった後、いよいよ「ふろいで、しぇーなー…」(erを「エル」と巻かず、現代ドイツ語の発音の「アー」にしたことで、歌いやすくしている)の練習の成果を示す時間が訪れた。大野は席のブロックごとに「ドミソド」と異なる音の高さを出させてハーモニーをチェックしたり、「ふろいで」の「ろ」をLではなくRの巻き舌で歌う訓練を施したりで、子どもたちのテンションを巧みに上げていく。
都響と2度「共演」した後、大人の合唱団も交えての大合唱で45分の「授業」は終わり。子どもたちの声は、大人の声をかき消すほどのパワーに達した。
「低学年には時期尚早。高学年になると、クラシックに一家言ある子も出てくるので、小4が最大の効果を発揮する」が大野の持論。東京23区内でも寄せ集めのオーケストラによる鑑賞教室のダルな演奏を聴かされる児童が多いなか、港区の小4は大野和士と都響の「伴奏」で初めての「ダイク」を歌えるのだから、すごく幸せだと思う。私は安井の「夜の女王」のアリアの高音が輝きだした瞬間、子どもたちの間を駆け抜けた「電流」のようなものを体感して、涙が出てきた。「来年は何が飛び出すだろうか」と、毎年が楽しみな催しだ。
そうそう、大野と吉川、都響、新国立劇場合唱団は超絶技巧オペラ「紫苑物語」との掛け持ちだった。あの過酷な日程の合間にこれだけの奉仕、プロの音楽家の凄みも垣間見た。
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