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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

渡邊順生・遠藤郁子・沖澤のどか

クラシックディスク・今月の3点(2023年12月)


ちょっと濃厚かもしれない

「フローベルガー&ルイ・クープラン ーチェンバロ精華集ー 」

渡邊順生(チェンバロ)

ヨハン・ヤーコプ・フローベルガー (1616-1667)

[1] トッカータ第9番 ハ長調 FbWV109

組曲第12番 ハ長調 FbWV612

[2] 1. Lamento sopra la dorolosa perdita della Real Maesta di Ferdinando IV, Ré de Romani &c.

(哀歌~ローマ王フェルディナント4世陛下の痛恨の崩御に寄す)

[3] 2. Gigue(ジーグ)

[4] 3. Courante(クーラント)

[5] 4. Sarabande(サラバンド)

[6] トッカータ第3番 ト長調 FbWV103

組曲第19番 ハ短調 FbWV619

[7] 1. Allemande(アルマンド)

[8] 2. Gigue(ジーグ)

[9] 3. Courante(クーラント)

[10] 4. Sarabande(サラバンド)

トッカータ第10番 ヘ長調 FbWV110

[11] Toccata N° 10 en fa-majeur, FbWV110

リチェルカーレ第5番 ト短調 FbWV405

悲嘆と墓碑(トンボー)~ブランロシェ氏の死に寄す FbWV632

墓碑(トンボー)~皇帝フェルディナント3世陛下の哀切きわまる崩御に寄す FbWV633


ルイ・クープラン (c1626-1661)

組曲 イ短調

[15] 1. Prélude à l'imitation de Mr. Froberger 6

(フローベルガー氏の模倣によるプレリュード)

[16] 2. Allemande 100(アルマンド)

[17] 3. Courante dit La Mignonne 105(クーラント「可憐」)

[18] 4. Courante II 106(第2クーラント)

[19] 5. Sarabande 109(サラバンド)

[20] 6. Menuet de Poitou 111(ポワトゥーのメヌエット)

[21] 7. La Piémontaise 102 (ピエモンテ風)

組曲 ハ長調

[22] 1. Prélude 9(プレリュード)

[23] 2. Allemande 15(アルマンド)

[24] 3. Courante 16(クーラント)

[25] 4. Sarabande 25(サラバンド)

[26] 5. Chaconne 26(シャコンヌ)

パヴァーヌ 嬰ヘ短調


「北とぴあ国際音楽祭2023」、ラモーの抒情悲劇《レ・ボレアード》(寺神戸亮指揮)の休憩時間にピリオド鍵盤楽器奏者の渡邊順生(わたなべ・よしお=1950ー)と話す機会があり、このディスクの試聴盤がて手元に届いた旨をお伝えしたら「自分の録音の中で最高の出来栄えではないかと思います」と、確信に満ちた言葉が返ってきた。帰宅後さっそく再生すると、すべてが手の内に入った解釈の素晴らしさとともに、何とも言えず豊穣かつ味わいのある楽器の音色にとことん魅せられた。


録音は2023年4月5、7〜9日、イタリア・ローマのヴィラ・メディチ(メディチ荘)。16世紀後半にメディチ家当主のフェルディナンドⅠ世によって建てられ、ナポレオンに接収された後、1803年からは「ローマ・フランス・アカデミー」として使われてきた。楽器は1700年頃フランスで作られ、1962年にアカデミー館長を務めた画家のバルテュスが購入、1980年代にフィレンツェのフランコ・バルッキエーリが修復した。「数ある16〜18世紀のチェンバロの中でも抜きん出た名器である」「実際に弾いてみると『これぞまさしく世界一の名器』と呼ぶにふさわしい楽器であった」と、長年の夢が叶った渡邊は感激を記す。音楽学者、船山信子さんの楽曲解説も詳細かつ適確で、実に丁寧なつくりのアルバムだ。

(ALMコジマ録音)

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「ショパン、哀しみのジャル」

遠藤郁子(ピアノ)

1. ノクターン ハ短調 Op.48-1

2. マズルカ イ短調 Op.68-2

3. マズルカ ヘ長調 Op.68-3

4. マズルカ 嬰へ短調 Op.6-1

5. マズルカ イ短調 Op.17-4

6. ポロネーズ 嬰ヘ短調 Op.44

7. ポロネーズ 変イ長調 Op.53『英雄』

8. ポロネーズ 変イ長調 Op.61『幻想』

9. ノクターン 嬰ハ短調 遺作


遠藤郁子(1944ー)は1965年のショパン国際ピアノ・コンクールで特別銀賞を授かった後、さらにワルシャワで研鑽を積み、ハリーナ・チェルニー=ステファンスカらに師事して以来、ショパンをレパートリーの中心に据えてきた。アルバムタイトルのジャルはポーランド語で「悲しみ」「悲嘆」「悲哀」などを意味、ロシアとドイツという大国の間で過酷な歴史を強いられてきたショパンの母国ポーランドだけでなく、その領土内に存在したアウシュヴィッツ強制収容所で亡くなったユダヤ人たち、今日のウクライナ、パレスチナに至るまでの多くの犠牲者の心を代弁する言葉として、遠藤は用いているようだ。


録音は2015年10月8日の東京オペラシティ リサイタルホール。河合楽器の「シゲル・カワイ SK-EX」を弾いたデビュー50周年記念リサイタルのライヴだ。その2年前に最初のピアノ教師でもあった母の遠藤道子を7年間の在宅介護の末に93歳で見送り、ジャケット写真の撮影者で2人目の夫だったカメラマンの田中克己に69歳で先立たれた直後の公演だったという。テスト盤を聴いた遠藤自身、「あまりにも悲しい音に絶句した」。幾多の悲しみを乗り越えて80歳に差しかかり、母の立ち上げた日本ショパン協会北海道支部が50周年を迎えた時点でようやく、リリースに踏み切った。若いピアニストたちの颯爽と軽やかな演奏とは異なり、1音1音をしっかりと彫り込み、魂の奥底から湧き上がるような打鍵に先ずは驚き、そこに語られていく情報の多彩さに耳が釘付けとなる。人生が滲み出た重量級の音楽だ。

(カメラータ・トウキョウ)

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シベリウス「交響曲第2番ニ長調作品43」

沖澤のどか指揮読売日本交響楽団


2021年10月9&10日、東京芸術劇場コンサートホールの読響マチネ・シリーズのライヴ録音。コロナ渦の代役とはいえ沖澤の読響デビューに当たり、産休前最後の本番でもあった。当日の前半は同じ作曲家の「交響詩《フィンランディア》」と旧東ドイツを代表するヴィルトゥオーゾ(名手)だったペーター・レーゼルの独奏したベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第1番」。演奏会の批評は「毎日新聞」のオンライン版に書いたので、後半の「シベ2」の箇所を抜粋して貼り付ける:


読響をフルに鳴らし、たっぷり歌わせながら混濁は一切なく、それぞれの声部や管楽器のソロをくっきりと浮かび上がらせる。日本のシベリウス受容、演奏解釈は多かれ少なかれ、フィンランド人を母に持つ日本フィルハーモニー交響楽団創立指揮者で、東京芸術大学指揮科の教授も務めた渡邉曉雄の影響下にあった。芸大出身の沖澤は「一応、渡邉先生の孫弟子に当たります」というが、和声感や音の響かせ方にはベルリンでの研さん成果を強く感じさせる。シベリウス自身、1889~91年にベルリンとウィーンへ留学、R・シュトラウスやブルックナーに強い印象を受けた後に「フィンランディア」(1900)、交響曲第2番(1902)を作曲した。沖澤は渡邉の〝呪縛〟から解放された世代として民族色をことさら強調することなく、ドイツ的な構造性や、シベリウスが1901年のイタリア旅行で得た明るい響きの影響なども克明に再現した。先に大植英次がNHK交響楽団から引き出した濃厚で極彩色の感触とは異なる、中欧の音楽伝統も踏まえた上の新しい「シベ2」の誕生だった。


この感想はライヴ盤を聴き直しても、全く変わらない。実演ゆえの粗さはあるとしても初共演のオーケストラを相手に堂々と揺るぎなく、遅めのテンポ(客席ではそう感じなかった)で雄大に造型していく様は、まさに大器の面目躍如である。

(日本コロムビア)

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