クラシックディスク・今月の3点(2024年8月)
ブルックナー「交響曲第8番」(ハース版)
アントニオ・パッパーノ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
2019年4月26〜28日、ローマのアウディトリウム・パルコ・デラ・ムジカのライヴ録音。サー・アントニオが2005年から音楽監督を務めてきたローマの名門はディスクにオペラを録音することがあっても歌劇場管弦楽団ではなく、聖チェチーリアのアカデミーに所属するコンサートオーケストラだ。そのオールマイティに高い演奏能力とバイロイト祝祭のアシスタント経験もあり、ドイツ音楽に造詣の深い指揮者の組み合わせから聴こえてくるのは「歌いに歌う」、semple cantabile(徹底して歌)のブルックナーだからびっくり。すべての声部がヴィブラートたっぷり、とことん歌いこまれ、ブルックナーがイタリア人になったかの錯覚に陥る。それでも構築は失われず、志の高さでも一貫するので、妙に新鮮な感動を覚える。SACD/CDのハイブリッド盤。
(ワーナーミュージック)
ブルックナー「弦楽五重奏曲」、ミヨー「バレエ音楽《世界の創造》」※
ミュージックダイアログ・アンサンブル
ヴァイオリン=石上真由子、水谷晃、ヴィオラ=村上淳一郎、大山平一郎、チェロ=金子鈴太郎、ピアノ=吉見友貴※
ヴェテラン奏者、大山平一郎(元ロサンゼルス・フィルハーモニック首席ヴィオラ奏者)を中心に続けてきた室内楽プロジェクト「ミュージックダイアログ」がブルックナー記念年にちなみ、一部では「ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲以来のドイツ=オーストリア系室内楽の傑作」とまで評価される逸品に向き合った。2024年3月29〜31日、キング関口台スタジオ(第2スタジオ)でのセッション録音。都響、N響、読響の首席に気鋭のソリスト2人が大山のもとに集まり、丁々発止、和気藹々のアンサンブルを繰り広げる。ブルックナーはウィーン系の団体とは全く異なるクリアな演奏、大編成の管弦楽では見落とされがちな前衛的作風がくっきりと浮かび上がり、ミヨーの音楽との組み合わせに違和感を抱かせない。
(キングレコード)
深沢亮子「ピアノ愛奏小品集」
モーツァルト「ピアノ・ソナタ ハ長調K.330」
シューベルト「楽興の時D780 作品94」
助川敏弥「夜の詩(うた)」「 夢逢い」「Prelude 春」
バルトーク「ルーマニア民俗舞曲 BB68」
ブラームス「幻想曲 作品116」 より「第2番イ短調 間奏曲」「第5番ホ短調 間奏曲」「第6番ホ長調 間奏曲」「第7番ニ短調 奇想曲」
85歳になった深沢が2024年5月11日、東京文化会館小ホールで行なったリサイタルとほぼ同じ曲目を6月10&11日、埼玉県富士見市民文化会館「きらり☆ふじみ」で改めてセッション録音したもの。バルトークは初レパートリーだ。15歳からウィーンで学び、ジュネーヴ国際音楽コンクールのピアノ部門で最高位(1位なしの2位)を得るなど、ヨーロッパでの豊かな蓄積、助川作品への長年の傾倒などが渾然一体となり、堂々の巨匠芸で圧倒する。それでいて音楽が決して枯れず、一貫して瑞々しさを保っているところも素晴らしい。
(ライヴノーツ=ナミ・レコード)
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