東京・富ヶ谷のHAKUJU HALL(白寿ホール)が主催する「Hakujuサロン・コンサート」シリーズの第8回、松田理奈(ヴァイオリン)と三舩優子(ピアノ)によるブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ全曲(第1ー3番)」を2021年6月10日に聴いた。「ホールが1日、アーティストの自宅サロンになります」のキャッチフレーズ、「ブラームス3つのヴァイオリン・ソナタへの誘い 愁いに満ちた旋律と人生を鼓舞する輝き」のサブタイトルとも少し物々しい気がしたけど、2人の意気込みを考えると、こんなものなのかもしれない。
ジェンダー(性差)問題がクローズアップされるなか、不適切な表現は努めて避けなければいけないが、これほど刺激的な演奏を聴いてしまったら、ひとこと言いたくなる。私が室内楽演奏会を頻繁にプロデュースした20数年前、女性2人のデュオはなるべく避け、男性と女性か男性2人のユニットをブッキングしていた。何らかの突発事態、アクシデントが起きた場合、女性2人だと「どうしましょ!、どうしましょ?」と同時パニックに陥り、どちらか一方が力づくでペースを取り戻すケースが少なかったという経験則に根ざした判断だった。時代は大きく変わった、と思う。今は男性2人でもパニックを起こせば、女性2人でも鉄板の危機管理を誇るチームがある。今夜の三舩はドーンと構えて巨(おお)きなブラームスの音の「海」を滔々と奏で、松田がクールな高音と大地のとどろきを思わせる図太い低音を巧みに使い分けながら鋭く三舩の〝洋上〟を泳いでいく。おそろしく男前の演奏だった。それでいて堅苦しさとは無縁で看板通り、サロンで寛ぎながらの座談のような趣があった。
冒頭のトークで「3曲ソナタだけの演奏会は初めて」と松田が打ち明け、三舩も「1曲ごとに休憩を入れます」と話していたので、かなり緊張していたのは確かだ。案の定、「第1番《雨の歌》」は2人の〝会話〟が弾まず、フレーズのアーチが架からずブツ切れで進行するもどかしさを払拭できなかった。ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会」というと大半が番号順。実際には、最も人口に膾炙した《雨の歌》を開幕に持ってくるのは非常に高いリスクを伴う。遅れてくるお客様のことも考えて、《F.A.Eソナタのスケルツォ》とか《ハンガリー舞曲》の1曲などの小品で肩慣らしをするのも一手かと思うのだが、万事にストイックな日本楽壇では難しいのかな? 「第2番」以降は松田も闊達さを回復、ぐいぐいと力強く迫り、客席の不安、当惑、睡魔など、あらゆるネガティヴ要素を自力で一掃した。
あっぱれ!、と拍手を贈ったところでリクエスト。松田には「ヴァイオリン協奏曲」、三舩には手始めに「ピアノ協奏曲第1番」で、さらなるブラームスの名演を聴かせてほしい。
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