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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

東京フィルに「帰ってきた若大将」バッティストーニ。劇場音楽家の連帯を実感


加山雄三主演の映画版では「若大将」シリーズ最終作(第18作)、「帰ってきた若大将」(東宝)が公開されたのはちょうど40年前の1981年2月。2021年1月22日のサントリーホールではイタリアの若大将(1987年ヴェローナ生まれ)、アンドレア・バッティストーニが1年ぶりに首席指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会へと帰ってきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受けた規制に従い、少し早めの昨年大晦日に来日、ほぼ軟禁状態?の待機期間に今回の曲目であるラヴェルの「バレエ音楽《ダフニスとクロエ》第1組曲&第2組曲」、ストラヴィンスキーの「バレエ組曲《火の鳥》(1919年版)」のスコアを徹底的に読み込んだ。いずれも20世紀初頭のパリでバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)を率いた伝説の興行師セルゲイ・ディアギレフの委嘱作品だ。


コンサートマスターは近藤薫。チューニングが終わりバッティストー二が現れると、客席の拍手が「お帰りなさい!」の熱を帯びた。アンドレアも指揮台へ上がって客席を向き、心からの感動を全身で伝える。ラヴェルが始まった。あの懐かしい、熱狂的な生命感を強く放射する音楽が戻ってきた。しかも従来よりも精妙で芯の通った弱音が際立ち、音色の柔らかなニュアンスも増している。空白は痛手だったが、思考と深化の時間を与えたのも確かだ。


昨年11月、同じホールでヴァレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が《火の鳥》全曲版を演奏したとき、それぞれがサンクトペテルブルク・マリインスキー劇場、ウィーン国立歌劇場を本拠とする劇場音楽家の圧倒的アイデンティティ、ノウハウを全開にして豊麗な音の絵巻物を展開するさまに、目(耳)をみはった。バッティストーニの〝本籍〟は歌劇場、東京フィルはオペラやバレエの仕事に最も通じたオーケストラであり、両者の出会いも2012年2月の東京二期会公演《ナブッコ》(ヴェルディ)のピットだった。


今回、1年ぶりの共演が定期演奏会にもかかわらず、ラヴェルとストラヴィンスキーの劇場作品のみで固められ、指揮者とオーケストラの深い結びつきの原点を再確認したにとどまらず、より洗練され、説得力を増す形で実現したのは幸いである。フルートやオーボエ、クラリネット、ホルン、トランペットなどのソロや打楽器の活躍も目覚ましく、全員が再会の感動を共有していた。緊急事態下のために休憩なし1時間あまりのサイズだったが、中身は濃く、客席の熱狂もすごい。いつもの演奏会より高い頻度でオーケストラが座ったまま、指揮者独りの「お立ち台」を近藤が演出する。バッティストーニも次第に感極まり、東京の〝友人〟たちへの愛を大きな身振りで現していた。日常の「かけがえなさ」に、思いをはせた。

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