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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

日本声楽界の充実映す「ランスへの旅」キャスト2組に華、園田の指揮も絶好調


左から中島郁子、砂川涼子、佐藤美枝子(9月5日終演後)

2019年9月5日と6日に新国立劇場オペラパレスで観た「ランスへの旅」(ロッシーニ)は藤原歌劇団の主催公演だが、二期会と新国立劇場が共催に入り、合唱団も3者そろって参加、キャストには二期会会員やフリーランスもいて、日本声楽界における「オールスターゲーム」の様相を呈していた。


初日組では何といっても小堀勇介(リーベンスコフ伯爵)、中井亮一(騎士ベルフィオーレ)のペーザロ・ロッシーニ・フェスティバルでも同じ役を歌った経験のあるテノール2人が光った。メリベーア侯爵夫人の中島郁子は二期会ではもう少し重い声の役を歌っているが、アジリタ(装飾音型)を適確にこなしながら、明晰なディクションでロッシーニの様式を見事にとらえ、新たな輝きをみせた。第2幕のリーベンスコフとのデュエットは、上演全体の白眉といえる。佐藤美枝子がコリンナからフォルヴィル伯爵夫人に、三浦克次がシドニー卿からドン・ブルデンツィオにそれぞれ役柄を替えるなど世代交代も進むなか、コリンナの砂川涼子が「藤原のプリマドンナ」として、全体の要に君臨した。伊藤貴之(シドニー卿)、久保田真澄(ドン・プロフォンド)、谷友博(トロンボノク男爵)、須藤慎吾(ドン・アルヴァーロ)ら、低音男声の充実も素晴らしい。


2日目ではコリンナの光岡暁恵が砂川以上に冴え渡ったアジリタを披露、コミカ(喜劇的)な側面の進境も著しく、大器がいよいよ本領を発揮する段階に至ったと思った。ベルフィオーレの糸賀修平、リーベンスコフの山本泰寛も健闘したが、中井・小堀組との比較ではややきめが荒く、山本の元気がいつもより少しないのも気になった。ベテラン佐藤とフォルヴィルをダブルで演じた若手の横前奈緒は適確なテクニック、伸びのある美声で光った。メリベーアの富岡明子は豊麗な美声の持ち主の分、アジリタやディクションが不明瞭になる傾向があり、今後の研鑽に期待したい。ここでも小野寺光(シドニー)、押川浩士(ドン・プロフォンド)、二期会から藤原に移籍した上江隼人(ドン・アルヴァーロ)ら低音男声が充実。


松本重孝の演出自体は再演、歌手をあまり動かさず、祝祭カンタータあるいはガラ・パフォーマンスという「ランスへの旅」の特殊な成立背景に即した措置が音楽への集中を高める。東京フィルハーモニー交響楽団を指揮した園田隆一郎は恩師アルベルト・ゼッダの遺産を着実に引き継ぎ、愉悦感と色彩感、カンタービレ豊かなロッシーニ音楽の感興を生き生きと再現した。初日よりも2日目が「鳴り」も「乗り」も良かったから、最終日の今日(9月8日)は大きく盛り上がるだろう。不思議なのは公演プログラム。フォルテピアノをピットで弾く小谷彩子はクレジットされているのに、女流詩人コリンナの伴奏を舞台上で2回務め、カーテンコールにも登場するハープ奏者の名前がどこにも記されていないのは、残念だった

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