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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

廣岡克隆が独奏したブラームスの協奏曲


東京交響楽団のアシスタント・コンサートマスターで旧知の間柄の廣岡克隆がソリストとして、ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」を弾くと知り、アマチュアオーケストラの東京カンマーフィルハーモニーの第21回定期演奏会(松井慶太指揮)を聴きに2021年2月23日、渋谷区総合文化センター大和田さくらホールへ出かけた。コンチェルトは後半で、前半には演奏機会が稀なメンデルスゾーンの「交響曲第1番」。室内オーケストラ編成ながら弦は対向配置で、ホルンは前半ナチュラル、後半バルブを使い分けるなど、様式感にも隙がない。


東京音楽大学で広上淳一門下の松井は1984年生まれ。川瀬賢太郎や原田慶太楼らと同世代で、東京混声合唱団のコンダクター・イン・レジデンスを2011ー2018年に務めた。過去、日本人作曲家を特集した演奏会で何度か指揮に触れ、感心した記憶がある。初めて聴くドイツ音楽の解釈にも確かな力を示し、メンデルスゾーンのレアな交響曲を瑞々しく響かせた。



終演直後の廣岡さん(左)と私

廣岡とは2001年に東響がトルコ&イタリア演奏旅行に出かけたとき、私がトルコ部分の同行取材を担当した折に知り合い、2人でペルシャ絨毯を買いに行って親しくなった。以来、楽屋で折に触れ言葉を交わし、SNSでもコンタクトするなか、今回の演奏会を知るに至った。いつも超多忙な東響が今日だけは暇?だったらしく、コンサートマスターの水谷晃も福島県白河市で東京都交響楽団ソロ・コンサートマスターの矢部達哉とともに、J・S・バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」を昼夜2公演の日程で弾いていた。


コンサートマスターの協奏曲ソロには独特の味わいがあり、古くはシモン・ゴールドベルク(ベルリン・フィル)からヘルマン・クレバース(ロイヤル・コンセルトヘボウ)、ゲアハルト・ヘッツェル(ウィーン・フィル)。アルヴェ・テレフセン(デンマーク放送交響楽団・ウィーン交響楽団)らに至るまで名演奏の系譜には事欠かない。果たして廣岡も譜面台を立てた几帳面なアプローチで、普段やり慣れない仕事に対する緊張からくる偶発的な乱れこそあったものの、オーケストラ奏者として豊かなブラームス演奏経験を随所ににじませ、理知的ながら深く心にしみる音楽をクリアな音色で奏でた。意表を突いたのは第1楽章のカデンツァ。しばしの沈黙を置いて、いきなりティンパニのオブリガート、最後はさらにチェロの合奏がかぶり、びっくり。終演後、ご本人に確かめるとブゾーニの作曲という。ただでさえ稀有なソロの機会に、レア物のカデンツァまで持ち出すとは、なかなか天晴れだ。


松井の協調ぶりにも隙はなく、オーケストラが万全の態勢で廣岡とのコラボレーションを楽しんでいた。日本のアマオケ文化の豊穣を再認識する。アンコールはドヴォルザークの歌曲「我が母の教え給いし歌」のヴァイオリン・ソロ&弦楽合奏編曲版。良い音楽だった。

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